5.《ネタバレ》 この作品は1953年公開、つまりあの『ゴジラ』が世に出る前年の映画なんです。つい2年前まで日本はGHQの占領下、もちろんそんな時には時代劇すらダメで大作戦争映画なんて製作させてもらえるわけもなく、やっと太平洋戦争の海戦ををテーマにした映画が撮れるようになったころです。ちなみに新東宝の『戦艦大和』も同年の公開。 この映画は山本五十六が主役で戦死するまでを描いたストーリーで、いわばこの作品をリメイクしたのが68年の『連合艦隊司令長官 山本五十六』だったという感じでしょうか。大河内傅次郎が山本五十六を演じているのですが、三船敏郎なんかよりも雰囲気自体は出ていたような気がします。しかし時代劇の大スターですから演技自体は時代劇風で、おまけにセリフが滑舌が悪くて聞き取りにくい、もっともミッドウェイ海戦以後のシークエンスではセリフすらほぼなかったですけどね。また戦闘シーンは戦前の東宝戦争映画からそのまんま流用、冒頭の山本五十六が新型艦上戦闘機を視察しているシーン、『翼の凱歌』の一式戦闘機・隼が飛行するところをそのまま使っているのでどっちらけです。その他にも『加藤隼戦闘隊』や『雷撃隊出動』の戦闘シーンも使われて、真珠湾攻撃はほとんど『ハワイ・マレー沖海戦』の映像でした。要は新規に製作したのはミッドウェイでの空母被爆シーンだけのようなものです。あとは記録フィルムも使われていますがこれまた繋ぎがデタラメで、大戦後期の艦上機がバンバン出てくるので、これではあの底抜け超大作『ミッドウェイ(76)』を笑えませんな。まあこれには『戦艦大和』の大ヒットに東宝が慌てて便乗した事情もありまして、本格的な東宝の太平洋戦争海戦映画は60年の『太平洋の嵐』ということになります。ドラマとしてもただ時局の推移をなぞっただけのような薄い脚本で、観るべきところもなかったです。 【S&S】さん [CS・衛星(邦画)] 4点(2023-10-24 23:14:39) |
★4.《ネタバレ》 「鷲」なんてタイトルだから、てっきり勇ましい戦闘機乗りの話かなんかと思っていた。航空機戦力の重要性を説いていたという山本五十六の事だったんだな。 終戦後たった8年の、東宝としては戦後初の戦争映画だそうで、個々の兵隊の話ではなく開戦否定論者だった五十六の自伝的映画。政権が次々と変わる話や時局・政治的な話のシーンが多く、ちょっと理解するのが大変だったりするが、当時に人たちには当然の知識だったのだろう。話は淡々と進むが、アメリカの資料映像の協力を得ながらそれと(比較的)違和感なくつなげられた円谷の特撮は迫力があって、スゴイ!でも好戦的な話ではなく、「ダメだダメだと思いながら立場的に戦争を指揮する五十六」の生涯を割とじっくりと見せてくれる良い映画だった。 【Tolbie】さん [DVD(邦画)] 7点(2019-08-13 07:39:15) |
3.《ネタバレ》 本多猪四郎監督と円谷英二監督が初めてコンビを組んで手掛けた戦後初の東宝戦記映画。真珠湾攻撃から山本五十六の戦死までを描いているが、多少大作らしい大味さはあるものの、戦争はいけないというストレートなメッセージが感じられる作品になっていて、先週「ハワイ・マレー沖海戦」を見たせいか、戦後になってこういう映画が自由に作れるようになったんだなという妙な感慨深さを感じた。山本五十六を演じる大河内伝次郎は重厚な演技で戦争反対の立場でありながら、連合艦隊司令長官となり、戦争の火ぶたを切ることになる五十六の苦悩をうまく演じていて、彼は「ハワイ・マレー沖海戦」にも軍人役で出演していたが、それとは違う印象を与えるのも戦中と戦後の映画の違いかもしれない。脇の出演者も豪華で、本多監督の映画の常連俳優の一人である志村喬が冒頭にちょい役で出演しているほか、小林桂樹や三國連太郎といった本多監督の映画には珍しい俳優陣の好演が光っている。中でも珍しいと思うのは三船敏郎が脇役ながら本多監督の映画に出演していること。これがかなり新鮮で、例えるなら黒澤明監督がゴジラ映画を手掛けるような感じか。円谷監督による特撮シーンも一部「ハワイ・マレー沖海戦」の流用っぽいシーンがあるが、迫力満点で見ごたえじゅうぶん。ドラマとしては翌年に本多監督と円谷監督が手掛ける「さらばラバウル」のほうが好きだが、戦争の無意味さや悲しさがひしひしと伝わってくる映画で、これが山本五十六没後10年、戦後8年というまだ戦争の記憶が生々しい時代に製作されているというのも意味を持ったことだと思う。そして本作をリアルタイムで見た人は果たしてどう感じたのだろうと気になるところではある。 【イニシャルK】さん [DVD(邦画)] 7点(2016-04-22 22:17:33) (良:1票) |
2.映画の冒頭と最後に出てくる字幕による戦争批判的なナレーションこそがこの映画の本題であるように映画全体を通して戦争という過ちを二度と起こしてはならない。という強いメッセージが感じられる作品になっている。戦争の責任を負う者、負わされる者との叫びが聞えてきそうなほどに人は何故戦争を起こしてまで醜い争いをしなくてはならないのか?主人公山本五十六演じる大河内傳次郎をはじめとするその他の脇を固める俳優陣の豪華な顔ぶれ、三船敏郎に三国連太郎に志村喬、そして、つい先日亡くなってしまった小林桂樹といった顔ぶれを見るだけでも当時の日本映画の俳優陣の凄さが解る。監督が日本が誇る名監督で怪獣映画の大傑作「ゴジラ」を生み出した本多猪四郎監督による特撮映像の迫力、白黒であるからこそ伝わる恐怖、戦争の恐さ、空しさ、悲しさというものがひしひしと伝わってくる。全編、ドキュメンタリー風な感じで流れるこの映画、日本とアメリカとの関係、日米の会戦に至るまでの経路、真珠湾攻撃からミッドウェイ海戦までの戦いの流れを描いている作品として見応え十分の作品になっている。最後に三船敏郎と志村喬、二人共もう既にこの世にはいないし、大河内傳次郎も当然、居ません。小林桂樹といった誰もが親しみやすい人間を演じて見せてくれている名脇役も亡くなっていない。同年代の俳優で唯一、生きている三国連太郎には彼らの分もいつまでも長生きして頂きたい。 【青観】さん [DVD(邦画)] 8点(2010-09-23 08:59:28) |
1.東宝の戦記映画です。山本五十六を主人公として、真珠湾攻撃、ミッドウェー海戦、ガタルカナル島の戦いを、忠実に描いています。実写フィルムと特撮を巧妙に織り交ぜており、見事な出来映えです。まるで、ドキュメンタリーフィルムを見るかのようです。戦いの派手さやドラマ性を求めて見ると裏切られた気持ちになるでしょう。難点を挙げれば、歴史、軍事の知識をあるていど必要とすることですね。公開当時は、どの役者がどの歴史上の人物を演じていたか、あるいは、どの艦船であるか、自明であったかもしれません。しかし、今となっては、即座に判別することはさすがに難しいです。DVD化にあたり、映像を多少損なうことになっても、「南雲忠一」とか「赤城」、「加賀」など字幕が出るようにしてくれるとありがたかったと思います。 【ジャッカルの目】さん [DVD(邦画)] 8点(2008-02-27 01:34:42) |