1.市川崑監督の初期コメディ作品群に漂う渇いたタッチは、地中海性気候のような過ごしやすさで、どこかルビッチに通じるような雰囲気もあって私の好みなんです。本作は結婚前夜の女性とその友人なる男性のランデブーを、映画(『哀愁』)、スケート、寿司屋、クラブと場所を移しながら二人の心理を映します。トボトボと深夜の道を腕を組み歩く物言わぬ二人のショット、靄の中を行く二人のショットは感傷的になりそうなのですがけっしてそうはならない。シーンを引っ張らない場面転換の切れ味、そして池部と久慈の台詞がかっていない台詞まわしがその原因でしょうか。ラストの千田是也の台詞が戦前への訣別を決意するかのように鮮やかで、若き北林谷栄と森繁久彌の姿に映画を見る・・・もうすぐ春です。