7.《ネタバレ》 ある冬の夜、カナダのモントリオール郊外の修道院の一室で、鋭い悲鳴が上がり、血まみれの若い尼僧アグネスが、嬰児の絞殺死体と共に倒れていた。
妊娠も出産も、全く身に覚えがないと言い張る、アグネスの側に立つ修道院長と、この事件の調査のため派遣されて来た精神科の女医との間で、現代の処女懐胎をめぐって、深刻な対立が始まった-----。
ブロードウェイのヒット戯曲を、舞台劇と同じくジョン・パウエルマイヤー自身がシナリオ化したにもかかわらず、舞台上の椅子と脚付きの灰皿以外は、何もない簡素な装置とは真逆に、「夜の大捜査線」「アメリカ上陸作戦」「屋根の上のバイオリン弾き」などの名匠ノーマン・ジュイソン監督による映画化では、映画の持つ特性を生かして、名カメラマンのスヴェン・ニクヴィストによるカメラは、血生臭い嬰児殺しの起きた、修道院の外へも自在に出て行って、清純だが自閉的な信仰の世界と、人間臭い世俗的な世界との対比を試みていると思う。
その人格的な代表が、「奇跡の人」「卒業」の名女優アン・バンクロフトが扮する修道院長と、これまた「コールガール」「帰郷」の名女優ジェーン・フォンダが扮する精神科医の二人になるわけですが、むろん両者は二分法的対立を単純に繰り返すのではなく、処女懐胎を自己主張する若きメグ・ティリーをも含めて、それぞれが背負った"女の業"のままに、丁々発止とディスカッション・ドラマが展開していくのです。
神とか信仰心とかに縁のない人間にとっても、何かが垣間見える一瞬が訪れるのはそのせいだと思う。
演技的な面で言うと、この演技派女優の競演の中で、アン・バンクロフトは、眼鏡をかけた老修道院長を謹厳に演じているにもかかわらず、つい煙草に手が出てしまう世俗的な二重性も露わに、彼女の長い女優歴の中では、最高年齢の老け役に徹していたのが、特に印象に残りましたね。