97.今まで見た戦争映画の中では間違いなく一番「怖い」作品でした。とにかく刻一刻と迫り来る死への恐怖感がもうハンパじゃない(集団自決のシーンはトラウマ必至)。胃は2時間半の間キリキリ痛みっぱなしで口の中はカラカラ、映画を観ていてこれほどフィクションであることを忘れたのは初めてです。『父親たちの星条旗』とは対照的にドラマ的な面白さを一切廃し、ただただ敵に追いつめられていく日本軍の様子を淡々と捉えたドキュメンタリーのような構成だったからこそ、ここまで圧倒的な恐怖の再現が可能だったのでしょう。戦場にドラマなどない、あるのは血と恐怖と死が織りなす地獄のみ……。硫黄島からの手紙、確かに受け取りました。 【とかげ12号】さん [映画館(字幕)] 9点(2007-02-28 23:00:16) (良:1票) |
96.おととい遅ればせながら観てきました。 …観る前、実はちょっと心配でした。 「よく終戦の日あたりにテレビでやっている特別ドラマと大して違っていなかったらどうしよう」とか、「『アメリカ人が撮ったわりにはよくできているじゃないか』なんていうのが主な感想になる程度の出来だったらどうしよう」とか。…でもそんな心配は杞憂なものでした。この作品がアメリカ映画であるということとかイーストウッド作品だということ、そういうのを抜きにしても私にとっては十分楽しめる作品、そして心に残る作品だったのですから(実際映画が始まるとイーストウッドのことはほとんど思い出すに鑑賞できたくらいです)。 …私は今楽しめる作品と書きましたよね。 このような戦争における部隊の全滅を描いた作品、いわば生と死の極限状態を描いた作品でありながら「楽しめる」という言葉に抵抗をもつ人もいるかもしれません。でも正直「戦争の悲惨さを考えさせる」とか「命の尊さを考えさせる」とか「日米のあらゆる違いを考えさせる」という啓蒙的要素よりも、あんなにも悲惨を極めた「硫黄島の戦い」を映画という娯楽として多くの人々に観せることができたことが、この映画の特筆すべきことではないでしょうか(イーストウッドという色眼鏡なしにこの作品を鑑賞したつもりの私ですが、今思ってみるとそういう点では「許されざる者」にも通じたものがあるのかもしれません)。およそ目を背けたくなるような悲惨なシーンも色のトーンの工夫などで上手く美しく表現しているところなど、心憎いようです。2時間半にも及ぶ時間を、ときおり回想を含ませているとはいえほとんど地味な戦場ドキュメンタリーのような様相を見せながら最後まで観客を引っ張っていく力は一体何によるものなのか?シナリオなのか役者なのか監督の手腕なのか、そんなことすら私にはわかりませんでしたが、とにかくあっというまの2時間半だったことは確かでした。 本来ならば10点を献上したいところですが、2部作の片割れ「父親たちの星条旗」を未見であること、あと鑑賞直後の一過性の陶酔である可能性、そしてやはり外国作品であるがゆえのほんの些細な「言葉の不自然さ」(とくに雑音として入ってくるセリフの端々に見られました)のため1点マイナスさせてもらいます。今度は「父親たち・・・」を鑑賞後すこし時間を置いたうえでまたこのレビューを書かせてもらいたいものです。 【ぞふぃ】さん [映画館(字幕)] 9点(2007-02-19 17:41:18) (良:2票) |
95.映画の内容についてのコメントはしずらいなぁ~。戦争を知らない・知ろうとしない人間がペロっと喋っていいもんでもない気がして。 あ。映画館の雰囲気が、通常の洋画(一応…)とは違って年齢層高く、苦笑シタ。そして、以前からよくゆってんですが、謙さんの死にっぷりはもう名人芸の域ですネ。 【ちっちゃいこ】さん [映画館(字幕)] 7点(2007-02-15 16:39:14) |
94.本当に日本人じゃない監督が作った作品なのでしょうか?もちろん細部に日本人の観点から見ると違和感を感じる部分はありますが、全体的には非常に完成度が高く、素晴らしい映画だと感じました。渡辺謙はもちろん、日本人俳優が本当によく頑張っていたと思います。個人的には「父親達の星条旗」の方が映画の完成度としては寸差で高いと感じますが、よくぞここまで日本の事を研究して映画を作った事に驚嘆します。若干気になった点は皆様もご指摘の通り、日本軍のエキストラや俳優陣が少ないせいか数十人からせいぜい数百人程度で戦っている印象が強く、あの戦いで日本側だけでも2万人以上の方が亡くなられている事を思うと、少々こじんまりとした戦いに感じてしまいます。 【はむじん】さん [映画館(邦画)] 8点(2007-02-14 02:46:39) |
93.《ネタバレ》 面白そうだったので彼女と見に行きました。 結構映像的にシビアなシーンもあり、 また展開も割とスピーディーだったので退屈しませんでした。 しかし何を伝えたかったのか、となるとやっぱり?が残ります。 現実をありのままに・・・といった感じでもありませんでしたし。 伝えたいことは何もなかったのかもしれませんね。 まあ、面白いことは面白かったです。7点進呈です。 【らべ】さん [映画館(字幕)] 7点(2007-02-11 21:58:11) |
92.太平洋戦争の中でも最も過酷な戦いと言い伝えられているのが、本作で描かれている硫黄島での攻防戦である。それは、記録映画やニュース・フィルムでしか知らなかった我々日本人が体感する、恐らく初めてと言ってもいいほどの本格的な映画化であり、しかも日本人が遠く忘れ去ってしまった感のある出来事を、米国人の手による映像化で喚起させられたと言う事には感慨深いものがある。実在した歴史上の人物と無名の兵隊たちとの物語を巧みに綴った原作を基に練り上げられた脚本も然ることながら、これが本当にハリウッド映画なのかと目を疑いたくなる程、日本人の心情を見事に描ききっている。共同制作がS・スピルバーグ、脚本にP・ハギスを擁し、そしてC・イーストウッドが監督に当るという、現ハリウッド最高峰の頭脳が集結して創り上げた本作には、単に日本人が出演していると言うだけでは説明がつかない、伝統的な日本映画の香りがする。これは、代表される2人の知日派により日本あるいは日本映画が研究され、日本人というものを本気で描こうとしている証しであり、今まさにそういう時代に差し掛かってきたのだと感じさせてくれる。企画の貧困によりアジアに目を向け、活路を見出そうとしている多くのハリウッド人とは一線を画するのである。もちろん原作を脚本化する事により、明瞭さを身上とする英語とはまるで違う日本語の微妙なニュアンスが十分に表現できたかは疑問が残るが、しかしその事は些かもこの作品の傷にはなっていないし、むしろ、だからこそ当事者たちの心情が痛いほど良く分り、心にストレートに響くのである。それがアメリカ映画の美点と言うものだろう。また塹壕に向けて火炎放射器で日本兵を焼き殺すという、硫黄島の戦いに於ける象徴的なシーンは、その余りの残虐性から日米双方に配慮し必要最小限に抑えられ、別の視点から戦争の残虐性を訴えたのは賢明な判断だったと思える。本作をさらに魅力的なものにしているのは、事実上の主役と言ってもいい二宮和也を措いて他にない。とりわけ、追いつめられ次々と玉砕していく仲間たちの無残な死に様を目の当たりにした事で、生への執着を見せる行動は、卑怯者としてではなく、人間として生き抜く知恵であり有りのままの素直な感情表現だと言え、この時代に生きた典型的な日本人青年というイメージを打砕く圧倒的な存在感を見せつけて圧巻である。 【ドラえもん】さん [映画館(字幕)] 9点(2007-02-11 17:20:31) (良:1票) |
91.《ネタバレ》 イーストウッド監督の戦争の本質に近づこうとする良心が感じられる。ひとつは、徹底した偏らない視点だ。敵と味方、善と悪、規律と堕落といった対立軸を日米のどちらのサイドでも描き、戦争映画に不可欠であり、また、イーストウッド自身が得意としていたナショナリズムをいとも簡単に切り捨てている。色々な角度から見なければ物事の本質を見失うという真理をそのまま示しているようだ。もうひとつが、兵士として戦った人間を描いていることだ。最前線に送り込まれた兵士達をそれぞれの視点から、現在の我々と同じ感覚で捉えている。戦争という異常な状況に身を置く兵士達の精神と人生を、国家間の対立や戦略とは距離をおいて丁寧に、客観的に。60年前に硫黄島にいた多くの若者達と、今を生きる我々と、何が違っているのか。同じではないか。君たちは歴史を知っているのか、彼らを忘れていないか、という問いかけが重く心に響く傑作だ。 【パセリセージ】さん [映画館(字幕)] 10点(2007-02-10 00:43:22) (良:1票) |
90.なんというか戦争感の違いでしょうか。 西郷の存在ってなに??栗林が最後に残した手紙の存在無視? 話自体にもまったく何の感慨も無く。気分の悪さが残りました。 これはプライベートライアンと何が違うのか・・・ 【ひで太郎】さん [映画館(字幕)] 4点(2007-02-08 00:17:06) (良:1票) |
89.イーストウッドだけあって、あまり感動的にもせず、ド派手な戦闘シーンばかりにもせず出来事を淡々と写しだしている感じでした。「父親たちの星条旗」の方はまだ観ておらず、硫黄島2部作は2つで1つの作品と思っているので評価はとりえずの点数で。 【アルテマ温泉】さん [映画館(字幕)] 7点(2007-02-02 22:13:31) |
★88.《ネタバレ》 まず感じたのは、イーストウッド監督の作品は好きなんですが、ハリウッド育ちのアメリカ人監督がこのような映画を撮ったことに驚きとショックを感じました。 過度(余計)な演出を省き、ひたすら淡々と硫黄島で戦う日本人達に起こっていたであろう光景を描いています。そこには涙を誘う友情劇も愛情劇も活躍劇もなく期待していたものとは違うので、あれれ?って感じではあったけど、だからこそ戦争というものの本質に近いものを観る側は感じることができたのではないでしょうか。お国のため戦った勇敢な人々…そんな単純な映画ではないです。面白い映画でもない。おそらくいかに儲けるかを考えたら、いかんせんスパイスが足りなすぎでしょう。 こういう映画は日本人が作るものだと思っていました(思っていたかった?)。でもふと今の邦画を見渡すと…金儲けに必死である。もちろんビジネスであるし、宣伝し人に見てもらわなければいくらいい映画を作ったとこで、意味のない話である。しかし、昨年の興収ランキング当たりを眺めてると、今までの邦画の専売特許をハリウッドにやられてしまったようで(例えるなら、銃の使い方だけでなく刀の使い方もそつなくこなされてしまった…てな感じでしょうか)、切なさと同時に硫黄島同様、侵略されている気分にもなったです。正直、悔しいですね…ええ。
余談が長くなっちゃいましたが、私が感じたのはここで描かれている人物たちは、日米兵のどちらも同じように、「死にたくない」という本能の部分が描かれていると感じたということです。勿論、お上のために戦い果てるという考えは理性の中で存在してはいるがそれと同時に時代は関係なく人間誰しも必ず持っている『死にたくない』という本能の部分と自分の運命を悲観するかのような心情(当時は恥とされる考えでしょうが)も感じました。そこにハリウッド的とは言えない『静かな』メッセージがあったのではないでしょうか。戦いたくて戦争をしている人間など戦場で銃を構えている人間に一人もいないし、心の奥底では自分の運命を呪いながら死んでいってるんだと…あるいみ強烈なアメリカ政府批判?。
そのようなことを考えさせてくれた過去からの手紙をアメリカ人監督を通じ今の私に届けられたのは、日本人としてはなんとも皮肉なお話です。日本人映画監督にはさらに皮肉なことですね。 【アップルマーク】さん [映画館(字幕)] 8点(2007-02-02 17:54:43) |
|
87.《ネタバレ》 ハリウッド製作の邦画ですが日本側の視点で分かり易く出来ています。 戦闘シーンはそれほど多くなく、洞穴の中での様子が中心でした。アメリカ側の被害が分からないので「父親たちの星条旗」も観ないと硫黄島の戦いの全体が分からないと思います。両方の作品が絡むシーンがもう少しほしかった様にも思いました。 洞窟の中で日本兵たちがだんだん追い込まれて行き、玉砕の場面では口では国のために死ぬんだといいながらも、家族のために生きたいという気持ちが葛藤し、戦争の儚さ・愚かさを感じざるをえませんでした。 この時代に生まれてなくて良かったとつくづく思いました。 渡辺謙の最後のシーンはラストサムライとかぶってた様な気がしましたが? 【nishiken】さん [映画館(字幕)] 8点(2007-02-01 05:04:11) |
86.《ネタバレ》 アメリカ人でなければ、「硫黄島玉砕」をこんなに淡々と描けないでしょうね。兵士達の「想い」がそれぞれ丁寧に描かれており、共感できます。生死の狭間でとる人間のそれぞれの行動は誰にも批判はできない。~自分があの中にいたらどのような行動をとるだろうか~70年前の日本~今の北朝鮮ではそれがまだ現実なのですな。 以前、硫黄島の生き残り兵の方の証言を元にしたNHK特集を観ていた為、それと比較すると、玉砕間近の極限の餓えと狂気の状況は表現不足です。戦争はもっともっと悲惨なものだそうです。 【つむじ風】さん [映画館(字幕)] 6点(2007-02-01 02:38:15) |
85.《ネタバレ》 ごめん。少数派かもしれないが、よいとはいえない出来だと思った。 冒頭からのけぞった。戦時中の兵士という設定の彼らの大部分が、悪態をついている現代っ子にしか見えない。脚本にも無理があって、あんな皮肉は日本語の日常からは出てこない。 とにかく俳優陣の演技に不満が残った。例えば、西郷。妻がいて元パン屋という設定で、ハナコとお見合いしたり、パン屋を開くまでコツコツ働いたりした歴史があるはずなのに、その背景がまるで感じられない。愚痴を言うシーン、妻との別れのシーン、栗林と話すシーン、人物像がまるでバラバラ。演じる人物の作りこみが足りない。最後では少年兵のような役回りになっていたが、ちょっとアレはひどいんじゃないのか。 俳優陣でよかったのは、名前は忘れたが西郷の友人で中盤自決する青年兵士と、元憲兵の清水くらい。 俳優だけでなく、映画側にも問題がある。人物造形が浅い。英雄は英雄のままで、悪人は悪人のまま。葛藤とか克己とか変化とかないんですかね。 戦争の恐ろしさ、人の尊さ、その他諸々のことを考えるのは大切なことだろう。ただ、この映画にはなぜかリアリティがない。史実をベースに人を思うように動かしてドラマを作って、それだけでは人の感動は得られないと思うのだが。「後世に伝えられてしまう戦争映画」になるとしたら、非常に不満だ。 もちろん、戦争映画の難しさも認める。だが、本当に考えたいなら、ルポやドキュメンタリーを調べるのがいいだろうと思う。今だって世界のあちこちで武器を使った戦争は起こっているんだものな。 【nadiend】さん [映画館(字幕)] 5点(2007-01-29 19:10:31) (良:4票) |
84.《ネタバレ》 じつは初日に観にいっているんだけど、未だに自分の中で消化できていない映画。とりあえず、文句をつける場所がないんだけど、何かが足りない。やっぱり、イーストウッドの最近の4作品に代表される無常感なのかなぁと思ったりする。それと、日本語の分からない監督が撮ることによる違和感もある気が・・・。その分、ちゃっちゃか撮ったであろう緊迫感っつうかライブ感みたいなものはあったから、どっちもどっちなんだろうけどね。あとやっぱイギーの死について言及はしてほしかったなぁ。 【ダブルエイチ】さん [映画館(邦画)] 6点(2007-01-28 19:09:44) |
83.《ネタバレ》 とても感動しました。変に泣かせようと盛り上げるような演出ではなく、淡々とストーリーが進行していくところに好感が持てた。栗林中将がラジオから流れる故郷の長野県の子供の歌を聞くシーンと、万歳三唱の前に部下にいうセリフのところで泣きました。今の日本は彼らの尊い犠牲の上に成り立っていることを実感。 【あんぐれーず】さん [映画館(字幕)] 8点(2007-01-22 21:46:59) |
82.知らなかった。どの程度現実に即しているのかわからないが、実際にこのようなことがあの島で起きていたこと。戦争の残虐さ。日本兵の靖国に対する思い。戦争のことを知らない我々の世代にとってこのような映画は貴重である。定期的に観て戦争の悲惨さを常に心に刻んでおかなければならない。 【ぺん】さん [映画館(邦画)] 7点(2007-01-21 03:21:57) |
81.エンドロールまで息ができないような感覚にとらわれ、胸が苦しくなるような映画でしたが、観てよかったと思います。 |
80.《ネタバレ》 日本人として、日本人が経験した硫黄島戦(あるいは太平洋戦争)がどのようなものであったかを知ることが、歴史を忘れず、語り継ぐという行為であろう。そこで我々が何を知るべきかといえば、日本人が経験した硫黄島戦の特殊性(あるいは日本人が経験した太平洋戦争というものの戦争としての特殊性、固有性)であり、それは「戦争の悲惨さ」などといった「一般論としての戦争映画」が描き出すような、戦争の本質を見ることとは性質を異にするもののはずである。結果的に、この映画は後半から終盤にかけての展開で明らかなように、「一般論としての戦争映画」として作られたに過ぎなかったと結論づけられよう。中心的な登場人物である栗林中将と西郷が、この戦争に対してどのような考えを持っていたのかがほとんど描き出されていなかった(日本兵の精神的な側面を描くことが決定的に欠如している)ことからも、それは明らかであろう。日本人にとっての硫黄島戦(あるいは太平洋戦争)を語り継ぐという作業を外国人に託してしまうことに致命的な無責任さが存在することを、映画を観終わって当然のごとく認識させられる。 【酒梅】さん [映画館(字幕)] 6点(2007-01-17 22:59:05) (良:1票) |
79.この国の首相が言う「美しい国」。時代に飲み込まれた純粋な登場人物達、ここで描かれた彼らの持つ国への情と平面的に結びつく物ではないことをただただ願う。 |
78.《ネタバレ》 『硫黄島からの手紙』のなかで、負傷して日本軍の捕虜になったアメリカ兵の青年が登場する。彼は手厚い看護を受けたものの、結局息を引き取る。けれど、彼が持っていた母親からの手紙の内容に、今までアメリカ人を“鬼畜”だと信じ込んできた日本兵たちは、「彼らも俺たちと同じじゃないか…」と愕然とするんである。 この場面は、本作のなかでもとりわけ感動的で、美しい。その時、日本兵たちは、目の前のアメリカ人青年をただ殺すべき〈敵〉ではなく、はじめて〈人間〉として認識した。と同時に、ぼくたち観客もまた気づかされるのだ。この映画そのものが、『父親たちの星条旗』にあってまったく「顔」を与えられなかった日本兵たちを、ふたたび個々の〈人間〉として見出すものであったこと。そのために、どしてもこれが「二部作」であらねばならなかったことを。 『星条旗』が、「憎悪と敵意」「政治」という「戦争の本質」こそを描くものだったとするなら、本作は、常にそういった「戦争」のなかで見失われてしまう〈人間〉を回復する試みである、といって良いかもしれない。・・・戦場にあって、ただお互いを殺し・殺されるだけの兵士たち。「憎悪と敵意」の対象でしかなかった〈敵〉同士を、イーストウッドの本作は、あらためて〈人間〉として描こうとする。それこそが、戦争の“消耗品”として歴史に埋もれ、顧みられることのない彼らを、あくまで一個の人間として追悼することになるからだ。だから、「戦争で命を落とした人々は敬意を受けるに余りある存在だ」というイーストウッド自身の言葉は、決して彼の「右翼的」な信条=心情から出たものではあるまい。むしろ彼は、現在に至るまで時の為政者(ブッシュ!)たちが「自分たちは正義の側で、悪と戦う」と唱え、戦争を肯定することへの断固としたアンチテーゼとして、兵士たちを1人1人〈個人〉として「戦争」から“帰還”させようとしているのだから。 この、全編のほとんどを日本人の役者ばかりが登場する「日本(語)映画」を、アメリカのジャーナリズムが高く評価するのも、おそらくその一点においてであるだろう。・・・これが、監督イーストウッドの最高傑作かどうかは分からない(し、どうでもいい)。けれど、戦争の「本質」を描き、兵士たちをふたたび〈人間〉の側に取り戻そうとする「硫黄島二部作」は、現代最高の「(戦争)映画」であること。それだけは間違いない。 【やましんの巻】さん [映画館(字幕)] 10点(2007-01-17 18:31:23) (良:4票) |