69.《ネタバレ》 さて、トム・クルがどうしてもドイツ人貴族に見えないとかいうことは、この際どうでもいいようなちっさいことなのだ。
なぜなら想像してみてください。硫黄島の栗林中将役を、チョウ・ユンファが演じて、作品が全編中国語だったとしたら?
…「ワルキューレ」で行われているのはそういうことです。どっちも白人だから、私らは気がつきにくいだけ。
だいたい私は有名イギリス人俳優満載のキャストにひっくり返りましたさ。
そして思ったとおり、最初の38秒以外は全編これ「英語」。
…だからさあ、たとえば戦時中に天皇か東條の暗殺計画があったと仮定して、それをチョウ・ユンファとかが主役で、中国人俳優満載で、全編中国語で演じたとしたら、そこに、いかなるリアリティが、ありますかって。
この有名なヒトラー暗殺計画は、断じて軽薄なエーゴの響きをもってではなく、あのゴツゴツした冷たいドイツ語で練られていたものなのです。すべての陰謀は、ドイツ語で企画・検討されたのだ。当たり前だ。
「言葉くらいなんだっていいじゃないか意味が伝われば」などと、言ってはならない。
真実はディーテイルに宿るのだ。
それとさあ、映画の内容についていいますと、トム・クル大佐をヒーロー扱いするための演出に必死みたいだけどさ、この暗殺が失敗した理由は誰が見ても明らかじゃん。
「ヒトラーは殺したいけど、自分は死にたくない」と思っていたからだ。
自分が無事に逃げることに重点を置きすぎて、結果、勝手にカバンの位置を変えられてしまい、爆発がヒトラーを直撃できなかった。
そんなに相手を殺したいなら、自分も死ぬ覚悟がないと、無理なんだよ。所詮暗殺なんて。
貴族出身の坊ちゃん大佐には、それができなかったから、失敗したんだよ。
それは歴史上の事実として、広く知られている。
それをいくらトム・クルが演じたからといって、「ヒーローだった」とするのは強引すぎです。
とにかくまあ、イギリス人の恨みが爆発してこんなことになったんでしょうなあ。こんな手の込んだ形で恨みを晴らすとは。やりすぎ。
私たちは、中国人がこういうことをしないことに感謝したほうがいいのかもしれませんよ。
ドイツ人は、幼少時から徹底した教育により「過去の罪」に対する罪悪感を背負わされて育つそうで、気の毒だと思います。ま、それをいいことにイギリス人にいいようにされちゃって。
ドイツ人、気の毒。