13.赦すことの苦悩。赦さないことの苦悩。赦されることの苦悩。赦されないことの苦悩。
人生は時に残酷で、一つの“赦し”にまつわるすべての人々が、どの決断をしたとしても、苦悩に苛まれることがしばしばある。
果たして、真の意味で正しい人間、真の意味で強い人間は、自分の人生を通していずれの“赦し”を導き出すのか。
この映画には、様々な“ミスリード”が含まれていて、巧い。
実話を元にした感動物語風にイントロダクションをしておいて、実は非常に辛辣で罪深いこの世界の闇が描きつけられる。
そして、重いテーマ性に対して身構えてみたならば、紡ぎだされる語り口は極めて軽妙でユーモラス。
御年80歳の大女優ジュディ・デンチのコメディエンヌぶりに、心が鷲掴みにされる。
原題は「Philomena」。ジュディ・デンチ演じる愛すべき主人公の名前である。
原題が指し示す通り、この映画は主人公“フィロミナ”の人間的な魅力に魅了されるべき作品だと思う。
暗く悲しい時代の中で、生き別れになった母と子。50年の年月を経て、ついに母は子を探す旅に出る。
実話とはいえ、もっと安易に感動物語に仕上げることも出来たろうし、悲しい時代が犯した罪を掘り進めて、もっと暗く重い社会派ドラマに仕上げることも出来ただろう。
カトリック教会の渦巻く闇だとか、レーガン政権下のエイズ患者への仕打ちなど、暗に示されている題材は多々ある。
しかし、この映画はそういうありきたりで安直なシフトを認めなかった。
主人公のキャラクターを魅力的に描き出し、コメディとして仕上げた巧さと勇気に賞賛を送りたい。
もう一人の主人公であるジャーナリストは、ふとしたきっかけで出会った貧しい老婦人のことを、“無知で心が弱い人たち”と決めてかかる。
だが、彼女と旅をしていく中で、ほんとうに含蓄が深く心が強い人間が誰であるかを知っていく。
それは、浅はかな固定概念を払拭する旅路でもあった。
主人公“フィロミナ”が辿り着いた「真実」は決して喜ばしいことではなかった。
それでも彼女は揺るがない。相手を赦し、すべてを受け入れる。
それは、何よりも最初に先ず自分自身の罪を認め、そして苦悩と共にそれを赦してきた彼女だからこそ導き出すことができた“答え”だったように思えた。