1.農家の人たちの専門用語って、なんか美しい。「しろみなみ」とか「あんどん穂」とか、嫌なものにもきれいな言葉をつける。そういう言葉たちに満ちた前半の理科の授業も面白いが、本当にいいのは後半、老人たちが語り出してからだ。この映画の忘れ得ぬ場面は、フィルム上に現われるのではなく、人の語りの中から浮かんでくる。わり婆さんの生涯最大のびっくりした話、家訓で熊撃ちをやめた話、景気がよかったころの花火の話。一日かけて町へ売りに行き疲れて帰ってきた後、親子で馬の脚を洗う情景など実際に映画で見たような気になってしまう。これら過去の物語が、みずみずしく現出してくる。語りかける相手を失っていたこういう無数の話が、このフィルムにかろうじて記録され、でもおそらく21世紀の現在は、語り手も含めてすべて消え失せてしまっただろう。花屋さんの作った炭のたてた澄んだ響きも、蚕が桑を食べるささやかな音も。