1.《ネタバレ》 つぶやきシロー流哀愁と自虐のヒューマンコメディ。主人公のメンタリティに共感し、真摯に仕事や家族と向き合う姿に好感を覚えました。ただ、春男を単なる「不器用で不遇な弱者」と捉えるのは間違っていると考えます。それは彼が失脚するに至った「内引き事件」を見れば分かります。彼は同僚の不正を見逃しました。これは仲間を守りたいという信念による判断。もちろん擁護などできません。万引き犯は警察行きか、最低限商品を買い取らせるのが当たり前。「仲間だから見逃す」は筋が通りません。しかし懲罰を受けてもなお、春男は自分の行為を悔いていません。彼は「自分の正義」を持っているということ。しかも彼自身の中で、社会一般のルールより上位なのです。腰の低さに惑わされてはいけません。春男は「強い人」です。また部下の言うように「優しい人」でもあるのでしょう。この気質は夫婦の馴れ初めからも窺い知れます。ただ、この傾向が過ぎると政治犯とかテロリストに行き着くため褒める気はありませんし、彼の優しさは結果的に同僚を救っていません。今回の選択は関係者全員が損をした悪手でした。もっとも、人生において最善手のみを指し続けることなど出来ません。間違って当たり前。でもどうせ間違うなら、正しいと信じて選択したいもの。そういう意味で「自分の正義」を持つのは悪いことではないと思うのです。あくまで自己責任の範囲で、という注釈が付きますけども。春男はきっと自分の事が大好きだと思います。本人に聞いたら絶対否定するでしょうが。というわけでタイトルの問いかけに対するアンサーは「みんなの正義と私の正義」であると考えます。