65.《ネタバレ》 9篇から成る江戸時代の怪談集みたいな「雨月物語」から2編をピックアップして脚色した作品。兄弟とそれぞれの妻の物語。日々の暮らしとその総体としての人生の意味を感じさせる脚本だが、特に説教くさい感じはしない。外国の映画祭で賞を受賞している作品。外国から見ると「とても日本的」なのだろうと思える描写が随所に見られ、その部分の映像の完成度が高いことが評価に繋がっているのだと思いました。霧の湖上で船を進めるシーンの趣きや、あかりが灯った幽霊屋敷の不自然なほど端正な美しさなど。あんな情景を「幽玄」って言うんですかね。宮川一夫氏の撮影技術に恐れ入る。戦国の世で、身近に戦があることが農民・市民に取ってどれほどの災厄だったかを改めて教えられた気がしました。築いてきた「暮らし」が不条理に壊される恐怖みたいなもの。他の作品で何度も観ているようなシーンだけど、本作で殊更そこに意識が留まったのは、陶器の窯焼きシーンを丁寧に描写していたからか、「親子三人が楽しく暮らしていければ…」という台詞が耳に残ったからか…。江戸の「読み物」の映画化として、私には比較的サラッと観られた作品でした。 【アンドレ・タカシ】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2012-03-17 00:57:00) |
64.《ネタバレ》 白黒なのに美しい構図、ライティングを駆使した映像美で暗い幻想的なストーリーを効果的に表現したのが凄い。芸術性が高く当時の日本映画のクオリティを世界に知らしめたのもうなずける。アメリカに比べれば圧倒的に資金、機材が不足しているのに、緻密で繊細な職人芸で世界レベルの映像を作り出しており、今の「はやぶさ」に通じるものがあると思った。 【nobo7】さん [試写会(邦画)] 6点(2012-02-05 14:55:42) |
63.2011.7/28鑑賞。暗く重い作品のようでず~と敬遠していた。スタッフも充実、脚本:川口松太郎、依田義賢、撮影:宮川一夫、音楽:早坂文雄。意を決して観る。 印象として黒澤の「羅生門」と重なる。一言で言うと「羅生門」はカンカン照りの乾いた感じで、「雨月物語」は霧がかかった湿った感じ。よく感じが似ている。 【ご自由さん】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2011-07-29 21:42:09) |
62.《ネタバレ》 溝口の映画では舟が出てくると、しっとりとした空気が漂い悲劇が起こる。『残菊物語』の舟乗り込みのような賑やかな舟も、けっきょく悲劇の進行を強調する背景でしかない。行方定まらぬような心細さが、悲劇を引き込むのだろうか。とりわけ本作は、此岸と彼岸の掛け渡しのような存在で、それ以前と以後の世界の違いを見事に表現していた。向こうの世界の幽玄、侍女たちが燭台を持ってくる朽木屋敷の空ろさと、こちらの家の囲炉裏の火の確かなぬくもりとの対比。欠点は小沢栄太郎の芝居のクサさと彼がらみのエピソードの浅さで、あの夫婦のあっさりした決着は投げやりと言われても仕方ないだろう。公開時の観客にとってはつい最近まであった戦後の世相が重なり、「戦地から帰ったら妻がパンパンになっていた」という身の上相談への回答といったレベルで受け止めた人も多いのではないか。しかしそれを補って余りあるほどに森=田中夫婦のほうのエピソードは見事で、森帰還のシーンが素晴らしい。こちらだって戦地から帰ったら妻が空襲で死んでいた、という現実と重なるが、それ以上の普遍性に達している。夫の帰りとともにフッと現われる宮木、そして朝日が差し込むまで家を守って消えていく。彼女はいっさい個人の無念も恨みも述べないが、より深い無念へと観客を導いていく名シーンだ。 【なんのかんの】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2011-07-29 10:07:53) |
【ホットチョコレート】さん [地上波(邦画)] 6点(2011-07-24 20:15:11) |
60.《ネタバレ》 昔の日本の作品らしいストーリーを日本らしさで装飾されていて好きな作品になりました。欲に惑わされ傷つき、やがて自分が本当にすべきことを認識するという話はありきたりですが胸に沁みます。宮木の最後の心の声に源十郎が戻ってきた嬉しさが籠っていて、それが伝わってき感動しました。またこの映画で使われている雅楽が良かった。どんな場面にも馴染んでいて音の幅の広さとか深さみたいなものを感じます。とにかく日本らしさに溢れる素晴らしい作品。 【さわき】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2011-07-22 00:38:49) |
59.《ネタバレ》 NHKでやってる「山田洋次監督が選んだ日本の名作100本・家族編」の作品リストを見て、一番楽しみにしていたのがこの「雨月物語」だった。変に期待しすぎた反動か、多少、物足りない気持ちはあるが、貧しくとも家族そろって暮らせれば幸せだとか、人間の欲の愚かさ、虚しさだとか、言いたいことはよく分かった。(でも阿浜が娼婦に成り果てたのを、夫・藤兵衛のせいにするのはちょっと可哀想…) 溝口健二ならではの芸術性、宮川一夫のカメラワークも素晴らしいが、この映画はなんと言っても京マチ子だな~。笑うにしても、怒るにしても、その演技、そして表情一つ一つが強烈に印象に残る。この人は「羅生門」の頃から既に完成された女優だったというイメージがあるが、妖艶さに磨きがかかって一層、大女優の名にふさわしくなった。 【リーム555】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2011-07-19 18:30:47) |
58.《ネタバレ》 京マチ子扮する良家の幽霊に見初められた男の怪談です。この世のものではない幽霊というものを、テクノロジーに頼らずとも表現し演じることができることの証明が本作であり、映像表現を貫徹する意志の強さを感じます。 【さめがい】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2011-07-19 12:55:31) |
57.ところどころ綺麗なシーンはありましたが(湖上の舟のシーンは良かった)、なんだかうまく入り込めませんでした。少し時間を置いてから再見してみようと思う。上田秋成の原作は好きなんだけど。 【ashigara】さん [DVD(邦画)] 6点(2011-07-09 15:19:50) |
56.《ネタバレ》 映画を見ていて、「どうしてここでカットが変わるんだろう」とか、「何でこのポジションからの構図なんだろう」などと思う時がある。もちろんぼくは映画を撮ったこともない、ただの観客だ。けれど、この場面ならロングショットで見たかったな、とか、ここはぜひこの女優のクローズアップを見せてほしかった! という、たぶんに勝手な物言いもまた、「映画を見る」者にとっての権利ではあるまいか。 もっといえば、こっちが思いもかけない画面を見せてくれた瞬間から、その作品に惚れ込み、心底から評価したくなるのである。 この、「世界のミゾグチ」の代表作の1本を最初に見たのは随分と昔だけれど、見る前はいささか気負っていたのが、見終わってまず思ったのは「めちゃくちゃ面白い!」ということだった。それまでにも、それ以後にも見た他の溝口作品と比べても、この映画は単純に「面白さ」において際立っている。何よりそれは、ここに実現されているのが、天才的というより職人的な部分において「完璧」な映画づくりだということに他ならない。 ・・・映画の終盤近く、森雅之の主人公はようやくわが家へと帰る。妻の名前を呼びながら人気のない家の様子をうかがう夫をカメラは追い、もう一度戸口へとパンした時、さっきまで火の気のなかった囲炉裏に火が入り、そこには田中絹代扮する妻が煮物を炊いているのだ。この場面をワンカットで実現してみせたその技巧は、確かに驚くべきものがある。けれど、それはあくまで、すでにこの世の者ではない妻を描くという「物語」の要請ゆえに実現されたワンシーンワンカットなのである。 その他においても、溝口作品に対して誰もが口にする流麗な移動撮影の長回しというより、この場面を描くならこれしかあるまいと誰もが納得する映像(=ショット)をムダなく編集していく鮮やかさはどうだ。だからこそ、この映画が100分足らずの極めて簡潔な(「B級映画的な」と言いかえてもいい)上映時間におさまったというべきだろう。 『雨月物語』は、溝口健二監督が何より優れた職人的技量をもった「物語映画」の担い手であることを、どの作品にもまして雄弁に告げるものだ。実際、映画の歴史上これほど「面白い」作品も、世界中探したってそうはないのだから。 【やましんの巻】さん [DVD(邦画)] 10点(2011-04-26 19:02:13) |
|
55.二度見て、ようやくこの作品の真価が分かってきた。 隅々まで計算しつくされた構図と宮川一夫の流麗なカメラワークが生み出す崇高な画面にもう脱帽。 幻想。死。欲望。妖気。が溢れ出てくる。 溝口健二が巨匠中の巨匠だということを改めて理解しました。 【せかいのこども】さん [DVD(字幕)] 8点(2011-01-16 13:52:27) |
★54.《ネタバレ》 約半世紀前にも関わらず、男達の業と欲望、それに忠実に生きた為に身を滅ぼす姿を描いた異色の作品。その魅力は兎に角、京マチ子の怪演につきます。その演技の妖艶なこと、妖艶なこと……。原作「蛇性の婬」の妖怪を見事に演じきっていたと思います。彼女が舞う姿は本当に美しいとしか言いようが無い。その他、溝口健二監督が描き出した美しい純日本の姿は本当に素晴らしく、外国人に日本映画を一本だけ薦めるとしたら本作を推しますね。唯一、惜しむらくは前半のパートがややダレることでしょうか。街に陶器を売りに出てきてから物語が急速に進むのですが、それまでやや退屈に感じてしまいました。 【民朗】さん [映画館(邦画)] 9点(2010-11-23 21:52:23) |
53.映像について少し勉強した後に見ると、カメラワークや陰影など、確かに巧みだなぁと思わされました。船上のシーンとかね。ただ他は正直あまり印象に残っていません。台詞が聞き取りづらかったからなのか、それともいまいちのめり込めなかったからなのか。 【Balrog】さん [DVD(邦画)] 7点(2010-09-12 10:59:34) |
52.長回しを多用した構成により、極上の舞台劇を見ているような印象を受けた。幻想的な画によりストーリーの妖々しさに磨きがかかっている。個人的には湖上で舟をこいでいるシーンが心に残っている。 【円軌道の幅】さん [DVD(邦画)] 8点(2009-12-25 23:43:59) |
51.《ネタバレ》 御伽噺を思わせる内容の中で、幼子が食べる前に母の墓に供えて手を合わせるラストシーンにハッとさせられました。宮木への供養はその思いを汲み取って生涯を送る事であり、誰にもあてはまる事なのだと痛感させられます。映像と和楽によって、妖艶かつ物悲しい世界に惹き入れられます。ご参考までに、ビデオの台詞は幸いにしてクリアでした。 |
50.もう、退屈のひとこと。どうでもいい話がダラダラと続き、台詞が聞き取りにくい(音楽はちゃんと聞こえるのに)。これなら台詞だけ消して、字幕を使った方がまし。映像に見るべきところもあるけれど、このつまらなさを帳消しにするほどでもない。早坂文雄の音楽がなかったら、最後まで見ていられなかったでしょう。 それにしても、この台詞の通りの悪さは、録音のせいなのか? それとも監督にトーキーを作る気がないの? 【アングロファイル】さん [CS・衛星(邦画)] 5点(2009-09-16 20:33:29) |
49.見事なカメラワークと映像の美しさ、日本昔ばなしのようなストーリー。 京マチ子さんも相変わらず美しい。 【eureka】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2009-08-27 12:10:25) |
48.四回目ですが、見るたびに細々ながら見落としてるような部分が発見につながり、だんだん良くなっていく典型的な名作でしょうか?亡霊との接触部分は、何とも気だるく見事な雰囲気を醸し出してくれています。 【白い男】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2009-06-16 23:50:58) |
47.《ネタバレ》 この映画は死霊の女性2人が主役です。妖艶で能のように仕草が美しい京マチ子と、母性豊かな賢妻の田中絹代。共通点は好きな男とのささやかな幸せを望んでいることと、上品で言葉遣いが丁寧なこと。対照的に遊女に堕ちながらも、強かに生き抜いた水戸光子が人間臭く、対比が面白かったです。一方、男2人ははっきり言って狂言回し。彼らの望みは、金儲けと立身出世、なんとも解りやすいです。改心に至る過程もすごく解りやすいですね。何にせよ、つきあわされる女たちは大変です。 あと、この映画で素晴らしいのは、墨絵のような画面の美しさとカメラワークです。特に霧の琵琶湖でのシーンと、誰もがよく撮れたなあ。と思ったはずの、源十郎が宮木を捜して家を一周する長回しのシーンです。源十郎が荒れた家を一周して戻ると、火が焚かれ、鍋と酒を温める妻がいる。ほっとして安らぐ夫のそばで、こちらに背中を見せる彼女はどこか不気味な黒い影に見えます。少し夫を責めるような視線を投げたり、やはり嬉しいと涙を見せたり、ここはもう田中絹代の抑えた名演技に引き込まれっぱなしでした。やがて、彼女は朝日の中へ消えていく。一方、1人の男性を獲りこむために存在した朽木屋敷も美しく幻想的な怖さがいいし、闇に消えた若狭と右近も魔性そのもの、素晴らしかったです。海外受けした理由がよく分かります。ただ、惜しむらくは宮木や阿浜の台詞が、ちょっと説教臭く感じてしまったこと。特に宮木はお金なんかなくてもいいのにと、ちょっと悲しげな目を見せるだけでよかった気がします。あと、どうせなら「吉備津の釜」もぜひ映像化してほしかったと思うのは、あの兄弟のような僭越な望みでしょうか?最後に藤兵衛に一言、全部戦のせいにしないで下さい。 【くなくな】さん [DVD(邦画)] 8点(2009-03-31 01:19:17) |
46.《ネタバレ》 (当時の映画メモをもとに編集) 日本の美しさというものを思い知らされました。 特に沼を船で渡る場面は美しいです。深い霧が渦巻いていて、凄く幻想的な感じがしました。 まるであっちの世界に繋がっていそうな、消えてしまいそうで異様な感じです。 “美しい女”は、とても怪しい美しさでまた異様です。 ああいう黒髪を見ると、日本人の深い何かを感じて怖いです。 付き添いのおばあさんも、怪しい感じがとてもよく出ていたと思います。 主人公の陶工の奥さんがとても母親みたいに優しくて、とても悲しかったです。 現実と幻想を描き男と女の違いが身に染みた圧倒的な物語でした。 (男とは現実を見失うものかもしれません) とても深くて異様な美しさです。 (以前は悪意に取り憑かれた心を害するレビューをしてすみませんでした。) 【ゴシックヘッド】さん [DVD(邦画)] 9点(2009-02-13 18:16:47) |