1.トム・ハーディのカメレオンぶりが凄すぎます。それは役作りや肉体改造が凄いというレベルを超えてしまっており、もはや完全に別人。『BLACK&WHITE』や『裏切りのサーカス』を見ればわかる通り、本来、この人はかなりの二枚目なのですが、本作ではそんなイケメンの面影が完全に失せてしまっています。全盛期のデ・ニーロをも超える程のなりきりぶりには恐れ入りました。本作がきっかけでハーディはブレイクし、今や2代目マックス・ロカタンスキーを任されるまでに成長しましたが、本作での演技を見れば、評価されて当然の俳優であることがよく分かります。。。
ハーディと同じく、現在では売れっ子となったニコラス・ウィンディング・レフンによる演出も絶好調です。コメディにもシリアスにも寄りすぎない独特の温度感を終始維持できているし、高い映像センスによって「目で楽しませる映画」にもなっています。『時計じかけのオレンジ』とも『ナチュラル・ボーン・キラーズ』とも違ったスタイルの犯罪者映画を確立しており、今後、本作が犯罪者映画の新しいひな形になる可能性もあります。。。
以上、演出と演技のレベルの高さは大きく評価できるのですが、全体としては「傑作になり損ねた映画」という印象です。モンスター級の犯罪者の生き様が描かれるのみで第三者の視点がまったく存在していないため、映画と観客との間にあるべき共感の接点が出来上がっていないのです。監督と俳優の技見せ映画としては大いに楽しめますが、残念ながらドラマとして得られるものはそれほど多くありません。