1.戦争によって壊されていく日常を「野球大会の中止」という観点から描いた佳作。当時の学徒出陣から六大学野球中止、更に最後の早慶戦開催までの早稲田、慶応双方の視点から史実に沿って描かれているので実に勉強になる。ストーリー自体もいわゆる「良い話」というヤツで戦争への強い怒りや引き裂かれる人々の悲しみなどがよく描かれており、なおかつ小道具などもしっかりと作り込まれているので映画に引き込まれる作りだとは思う。だが問題なのが単純な対立構図にしてしまったこと。藤田まことは本作で言うところの完全な悪役だと思うんだが、彼の苦悩をしっかり描かないのはマズイ。彼が早慶戦開催を渋る理由はいたく当然のことを言っているわけで(考えてみれば神宮の開催など無理に決まっている)、柄本明の必死の頼みを聞き入れないのも当たり前。結果的に彼が折れたことで開催が決まるわけだが、開催反対組の言い分もしっかり描いていれば更に面白くなっただろうに。そこが実に勿体ない。まあ、この手の映画としては押しつけがましいお涙頂戴に走ることもなく、史実に沿って描いているので安心して見ていられる平均点以上の作品だとは思う。