127.《ネタバレ》 刑事物における金字塔と言える映画ですね。
こういったジャンルの場合、どうしても主人公二組による「バディ形式」が多くなってしまうものなのですが、本作の主人公は一人。
それだけに、主演のエディ・マーフィの魅力を堪能出来る作りになっていると思います。
と言っても、主演の魅力に頼りっ放しの映画という訳では無く、脇役にも「血が通ってる」と感じさせてくれるのが、本作の特長ですよね。
例えば、冒頭でトラックを暴走させて警察から逃げようとする悪人なんかも、カーチェイスを繰り広げている内に楽しくなって笑顔になる場面があったりして、妙に憎めない。
バナナをタダでくれたホテルの従業員にも愛嬌があるし、画廊で働いてるセルジュにも「3」で再登場するに相応しいような存在感がありましたからね。
勿論「ビバリーヒルズの警官」にあたるタガートとローズウッド達も良い味を出しており、彼らが主人公のアクセルと仲良くなっていく様は、とても微笑ましかったです。
ラストにて、皆で口裏を合わせてアクセルを庇ってみせる場面とか、悪い事をしているんだけど、それによって「仲間としての連帯感」が生まれた事を自然に描いており、観ているこっちまで、その仲間の輪に入れたような気持ちにしてくれるのも、凄く良い。
観客との「秘密の共有」を丁寧に描いているという一点においても、本作は優れた映画だと思います。
そんな本作の難点としては……主人公の行動が「模範的な刑事」とは程遠く、観ている側としても「これは、倫理的にアレコレ言うような映画じゃない」と頭を切り替える必要があるとか、精々そのくらいかな?
あとは、主人公の動機となる「親友のマイキーを殺された仇討ち」に関しても、良く良く考えてみると「金(正確には無記名債券)を盗んだマイキーが悪いのでは?」って思えてきちゃうのは、引っ掛かる部分ですね。
もうちょっとマイキーを「不当に殺された被害者」として描き、自業自得な感じを抑えてくれていたら、もっと素直に主人公を応援出来たかも。
ちなみに、本作は元々シルヴェスター・スタローンが主演する予定だったとの事で、コメディ色を薄めた映画にしたいというスタローン側と制作側とで意見が分かれ、その結果「スタローンなりのビバリーヒルズ・コップ」として「コブラ」(1986年)が生まれたというのも、中々興味深い逸話ですね。
本作は後のエディ・マーフィ主演映画に比べると「親友を殺された仇討ちをするという、ハードボイルドな粗筋」「銃撃戦が意外とシリアスで恰好良い」という珍しい長所を備えているんですが、それって元々はスタローン主演作だったからでは? って思えちゃうんです。
あるいは「48時間」(1982年)の影響かとも考えられますが、そちらでも「仇討ちをする刑事」はニック・ノルティの役でしたからね。
やはり主演の交代劇により「本来エディ・マーフィには相応しくないような映画を、エディ・マーフィが自分色に染め上げている」という、独特の魅力が生まれる形になったんだと思います。
本作は映画史に残る傑作ですが、演者や監督の力だけでなく、そんな「素敵な偶然」も作用した結果、そうなったんじゃないかと思えば、浪漫を感じちゃいますね。
エディ・マーフィの代表作でありながら、エディ・マーフィらしからぬ魅力も味わえるという、何だか御得な一品でした。