266.《ネタバレ》 厳選された台詞と場面。余計なものも足りないものもない、映画として完全です。
「骨にまで達する傷の、出血を止めることはできない」
◆ヒラリー・スワンクについて
マギーという役は、役者にとってかなり面白い役なのではないでしょうか。
もっとひねりを効かせて前に出ることも出来たでしょうに、スワンクは最もシンプルな形でマギーを演じているように思います。
それがマギーのファンタジー性を高めている。
なぜボクシングを始めることになったのか?フランキーがマネージメントするまではどうやって前座試合を取ってきたのか?ボクサー人生の背景がまったく語られないマギー。しかも遅咲きの彼女の圧倒的な強さは、才能とか努力だとかだけでは説明がつかないほどのものです。
画面に一度も登場しないフランキーの娘、ケイティはおそらくマギーと同年代。
マギーは償いを求めるフランキーの前に現れた天使のようにも見えます。
◆モーガン・フリーマンについて
元カットマンのフランキーと元ボクサーのスクラップ。現在では立場が逆になり、スクラップがフランキーの女房役となっています。マギーに対しても、父親役がフランキーなら、ジムを守り、見てないようでちゃんと見てる母親役がスクラップ。
フランキーの理解者、代弁者として、近作で一番の熱演だと思います。
「俺はトレーナーじゃないが・・・」
往年の名ボクサーでありながら、なぜかトレーナーではなく雑用係としてジムにいるスクラップ。
彼にとってトレーナーとして後続を育てることは、リングを降りることを意味するのかもしれない。
片目を失い、老境に達しつつも、彼はあくまでもボクサー。
◆クリント・イーストウッドについて
監督イーストウッドが作品をがっちり捕らえているのに対して、役者イーストウッドはまずフリーマン、スワンクありきで、流れのままにフランキーを演じているような気がする。
今までのイーストウッドにはあり得ないくらいエモーショナルな演技。
「どうしたらいいのかわからない」
フランキーは常に、どうしたらいいのかわからない。
教会へ足は運んでも、真剣に祈りをささげることはできない。
実の娘ケイティに宛てた手紙が戻ってきてしまうなら、他のアプローチもあったはず。でもしない。
努力しているふりで、実は全てを先送りにしていたフランキー。マギーに出会うまでは。