265.《ネタバレ》 ドラマ版「ザ・ミスト」(2017年)を一気見した勢いで、久々に本作も観賞。
後味が悪いというか、趣味が悪いというか、とにかく強烈なバッドエンドの映画なのですが、途中までは「スーパーに籠城するモンスターパニック映画」としても楽しめるようになっている辺りが嬉しいですね。
自分のようにラストが苦手な人間でも「中盤までの籠城戦は楽しめた」と評価出来るし、上手い作りだったと思います。
「主人公を臆病者と罵っていた強面のオジサンが、いざモンスターが現れると怯えるばかりで役に立たない」「如何にも頼りない副店長のモリーが、実は射撃の名手で大活躍する」とか、お約束を押さえた脚本になっている点も良い。
決死隊となって外に飛び出す男に対し、武器として小さなナイフを渡そうとしたら、もっと大きなナイフを既に持っていると返される場面なんかも小気味良くて(流石はフランク・ダラボン監督)と感心させられるものがありましたね。
店の外で男が襲われた事を、命綱の動きだけで表現してみせる件なんて、特に素晴らしい。
そういった面白い場面が要所要所に配されているので退屈しないし、監督としても脚本家としても優秀な人なんだなと、今更のように思ったりしました。
その一方で、そんな「上手さ」が悪い印象に繋がってしまった部分もあったりして……それは終盤の車中での射殺シーン。
ここ、せめて息子が眠っている内に済ませてやれば良いのに、わざわざ起きるシーンを挟んだ後に父親が撃つ流れになっていて、これにはもう(そこまでやるか)と呆れちゃいました。
確かに、そうした方がより衝撃的で後味も悪くなるし、効果的な演出だって事は分かるんです。
でも、流石に悪趣味過ぎる気がして、ノリ切れませんでした。
ノリ切れないといえば、主人公達が拳銃による死を選ぶのも納得いかなくて、説得力に欠けていた気がしちゃうんですよね。
妻の死が主人公にとってショッキングだったのは分かるけど、他の面子まで揃って絶望するっていうのは(なんか急に悲観的になったなぁ……)と違和感を抱いちゃう。
そもそも「絶望して一思いに家族を射殺しようとする父親」という展開自体は「アメリカを震撼させた夜」(1975年)でも描かれており、その際には間一髪で真相を知って皆救われる結末だったりするんです。
恐らく本作のラストも元ネタはそれであり「真相を知る数秒前に射殺していたら、どうなっていたか」を描いたって事なんでしょうね。
その結果、歪みが生じたというか……
原作小説では最後まで主人公は希望を失わずにいる話なのに「アメリカを震撼させた夜のオチを剽窃して、更に衝撃的なラストにしたい」っていう意図ゆえに結末を変えたせいで、こんな不自然な形になったんじゃないでしょうか。
元ネタの「アメリカを震撼させた夜」では「心中を提案したのは絶望した母親。幼い子供達は歩き疲れて泣くばかり。父親はそんな妻や子供達を哀れんで心中を図る」という形だから、ちゃんと説得力がある展開だったのに、本作は「安易に他の作品を剽窃した結果、それまでの話の流れと合ってないし説得力も無い結末になった」としか思えない形であり、凄く恰好悪い。
全体の完成度という点を考えても、この「無理矢理バッドエンドにした」感じは、どうも好きになれないです。
その他にも、序盤に話題になった「歩くタブロイド紙」ことエドナが登場しないまま終わるのは寂しいとか、最初に店を飛び出したオバサンが無事だった理由が明かされず仕舞いでスッキリしないとか、細かい不満点もあったりするんですよね。
自分はバッドエンドが苦手ではありますが「それでもなお、この映画は素晴らしい」と認めざるをえなかった傑作も一杯ある訳だし、どうも本作はそれに該当しなかった気がします。
「ザ・フォッグ」(1980年)との類似性、後の「ウォーキング・デッド」(2010年)にも通じる作風、霧が出現する前は平和な日常だった映画版と日常の時点で化け物が身近にいたドラマ版との対比など、語りたい事は他にも色々あるのですが……
結局、この映画に関しては終わり方が衝撃的過ぎて、それを好きか嫌いかどうかという話に落ち付いちゃう気がしますね。
自分としては「嫌いな終わり方」だったのですが、それなりには楽しめたし、色んな客層を配慮して作られた、出来の良い映画だったと思います。