374.《ネタバレ》 個人的には後年の「椿三十郎」や「天国と地獄」の方が完成度は高いと思うが、やはり一番好きな黒澤映画はコレになるだろうか。俺にとって白黒映画の悪いイメージを払拭してくれた思い入れのある作品の一つ。
ジョン・フォードやボリス・バルネットが馬ごと追ってスピードを追求すれば、黒澤明の場合は馬を待ち構えて迎え撃つ視点。冒頭で野武士が走り去るのを見守る視点は恐怖から、最終決戦で馬を追いかけるのは「ぶった斬ってやる」と標的に一撃浴びせるために。
黒澤が受け継ぎリスペクトを捧げるアクションの素晴らしさも見所だ。
百姓と侍たちが絆を結ぶ展開・馬や群衆スペクタクルの迫力は伊藤大輔「斬人斬馬剣」や鳴滝組の「戦国群盗伝」、仲間集めと馬の疾走はフォード「駅馬車」、ユーモアと殺陣の切れ味は山中貞雄「丹下左膳」等々。
冒頭20分の導入部、麦が実る「麦秋」までのタイムリミット、鶯の鳴き声は春の証明。実るのが速い街の麦は時間の経過を伝えその得たいの知れない恐怖が強まっていく。
そこに光を差し込む官兵衛といった侍たちの登場。戦力が揃っていく頼もしさと楽しさ、人足や菊千代が百姓と侍たちを結び付けていくドラマ、戦闘準備のワクワク感。それが詰まった2時間だけでも面白いが、それを爆発させていく後半1時間30分の死闘・死闘・死闘!
登場人物もみんな味のある面々。
野武士を恨む利吉、娘が大事な万蔵、弱腰の与平、間に入って仲裁する茂助、侍に惹かれる志乃、どっしりと構える長老儀作。
侍たちも冷静な指揮官の官兵衛、地味ながらハニカミと戦闘時の怒気が頼もしい五郎兵衛、縁の下の力持ち七郎次、若く未熟な勝四郎、ノッポのムードメーカー平八、凄腕の剣客である久蔵、侍・百姓・野武士に片足突っ込んだトラブルメーカー菊千代。
それぞれに役割があって必死に生きようと戦う。特に菊千代は大きな楔。二つの立場を繋ぐ無くてはならない存在。
彼が居なければ官兵衛が百姓の心情を深く理解する事も無かっただろうし、また官兵衛がいなければ菊千代が村に来たかどうかも解らなかった。持ちつ持たれつの関係。
菊千代と官兵衛の一喝による「鎖」、野武士という打倒すべき目的は「道」となって団結を高めていく。さらには平八の死。百姓を代表する利吉の責任感、家族同然となった仲間の死。誰も裏切り者が出なかった理由がここにあるんだろうな。
劇中の野武士は作物を食い荒らす「災厄」でしかない。「災害」に感情移入すればコチラが殺される。殺るか殺られるか。野武士もまた仲間の死を還り見ず何度も突っ込む。理由は解らない。解らないからこそ怖い。色々な解釈が持てる存在だね。
とにもかくにもこれほど心打たれた作品、点数など安いもの。俺にとってマイフェイバリットな映画の一つだ。