206.《ネタバレ》 この映画は、西洋化の文化が進んだ現代の日本だからこそ撮れる人間ドラマのハートフルコメディ。
基本的には面白おかしく主人公たちの日常を描くんだけど、登場人物一人一人の丁寧な掘り下げ、趣味のダンスが生きがいになってしまった人達の喜びや哀しさを噛み締める映画なんだよな。
ダンスの生徒と教師、家族持ちの男と独身女性の不思議な関係・・・一線を越えずとも、ダンスを通じて心と体で交流する様々な人間模様を見せてくれる。
「日本人が社交ダンスだなんて・・・」というセリフからも解る通り、日本人は昔から亭主関白的な文化で“女性と手をつなぐ”なんて習慣は馴染みが薄い。
まして一緒に床は過ごしても手を取り合って踊るなんて風習は皆無に近かった。
明治維新後も「鹿鳴館」で社交辞令として踊るくらい。
西洋を見習って服装は変わっても、古くからの中身はほとんど変わらない時代が続いた。
軍隊だって基本的には男が主軸。女武将や女城主、女スパイは歴史上数あれどほんのひと握り。女性の自由も戦後になって開放的になったワケよ。
本作は戦後から50年以上たった節目とも言える頃に作られた。
まだまだ職業差別とかはあったけど、それでも男と女が面と向かって腰を据える時代になっていた。
洋服を着たり和洋折衷が当たり前の世の中で、社交ダンスも小学生や文化祭の頃にやるのが普通という子供も多かっただろうね。
しかしこの頃の社会人にとっては「社交ダンスなんてお年寄りかもの好きしかやらない古臭い趣味」なんてレッテルがあっただろう。
西洋で社交ダンスなんて当たり前、日本は身なりは西洋化しても心は昔の名残が残る・・・そんな情景を感じられる。
これは日本人なりにそのレッテルを破り、一人の人間として一歩を踏み出そうって勇気なのよ。
登場人物たちの心の殻と、当時の日本の風潮を重ねた二重の人間ドラマなのさ。