193.前作「用心棒」を上回る絶妙なアクションとユーモアスな雰囲気が融合した映画の真骨頂とも言うべき作品。
益々野性味を増した三十郎(偽名)が介入して巻き起こる大掃除もパワーアップ!
ものの数秒で数十人を斬り捨てる破壊的な爽快感。
もう馬鹿みたいに一人で叩っ斬りまくる。
予告のあの「のほほーん」としたBGMすら「これはギャグ映画だから真面目に見るな」と言いたげだ。
それを迫力ある画質と音響で堪能できるとはいやはや何とも。
何より冒頭から一気に惹き込まれる。
寺で怪しい算段をする男たち、そこに何の前触れも無しに登場する三十郎は前作「用心棒」を先に見ておかないと味わえない雰囲気だ。
その三十郎が若侍たちを嗜め、たった一人で寺を囲む男たちを叩きのめす痛快さ。やたらめったら斬るのではなく、最初は鞘で“警告”する戦術。
「リオ・ブラボー」や「ペイルライダー」もその警告に始まり無駄な流血を避けようと務めるが、結局は血みどろの戦いを避けられない哀しみ。
そんな三十郎が暴力と周到な詐欺師振りを一手に引き受け、戦を知らない若き侍たちに人を斬らせないこだわりが良い。
白刃に輝く刀のような9人の若者。それを鞘に収めて成長していく人間ドラマも見所だ。
「用心棒」に比べると無茶な部分も多い(ラストのアレの量はギャグだろもう)が、そんなたまげた映画が「椿三十郎」だ。
意地でも他の奴を血で染めたく無いのか、問答無用で地に叩き伏せる三十郎。
室戸「おまえみたいな酷い奴は許せねえ」
もっと言ってやって下さい室戸さん。
それと、三十郎のセリフにある「金魚のウンコみたいにゾロゾロ来やがって」的なセリフ。
本当に井坂(加山雄三)と保川邦衛(田中邦衛)以外見分けが付かない(笑)。
後は黒澤映画で見慣れた広瀬(土屋嘉男)くらいか。
そこにお茶目な木村(小林桂樹)を入れて11人。
まるでサッカーのチームだ。
三十郎(三船敏郎)が司令塔兼フォワード兼後方兼・・・要は全部だな。
仕事ほとんどこの人だし。
そんで加山がキャプテンか?
正に「チーム男子」。
監督はモチロン睦田夫人(入江たか子)。マネージャーが千鳥(壇令子)。これがあの「赤ひげ」で井戸端を囲む茶気茶気した娘をやると誰が思ったであろうか?同一人物が演じているとは思えないくらいキャラが薄い。
おっと、腰元のこいそ(樋口年子)も捨てがたい。この娘がいなけりゃ「室戸半兵衛終了のお知らせ」伝説も始まらなかったわけだ。
それに振り回される三人の悪人も見所。
・・・ん?
「銀嶺の果て(原題:山小屋の三悪人)」、
「隠し砦の三悪人」、
「悪い奴ほどよく眠る」の三悪人・・・アンタどんだけ3人組の悪役が好きなんだよ監督wwww。
そして最大の見所といえば、主人公に散々振り回されて部下も上司も全員獄所にぶち込まれて人生を台無しにされてしまう室戸半兵衛(仲代達矢)。
立場が無くなり三十郎との望まぬ「血闘」。
三十郎も心臓ごと叩き切って壮絶な最期をくれてやる。
何という被害者。
情報収集とはいえ若侍を生け捕りにしてくれたり、ちょっと悪ぶりながらも何かと三十郎を気遣ってくれるなど、人間としては物凄く良い奴だった。
仲代の演技力と貫禄も素晴らしい。
あの「卯之助」が旗本一番の剣豪に化けたもんだ。
本当に同じ役者が演じているとは思えないくらい演じ分けが凄い。
殆ど刀を抜かなくとも伝わって来る強者の覇気。
そして背中から漂う哀愁!
「鞘の中の刀」でもあり続けられただろうに、三十郎に果し合いを申し込んでしまったのが武運のツキ。
三十郎と同じように「抜身の刃」と化してしまった。
「切腹」の仲代もそうだが、極限まで追い詰められたからこそ、彼らは真正面から勝負を挑んだ。
意地でもあり、誇りでもある全てを賭けて。
役者ってのはこういうもんだな~とつくづく思う。