58.《ネタバレ》 これは完全にジブリ作品ではなく駿作品。
ジブリお馴染みの愛くるしいキャラクターは全くでないので
親子連れはこれを観ても退屈でしかないと思われる。
大人向きと言われるのもよくわかる。
ジブリお家芸的な食事シーンの代わりに喫煙シーンのなんと美味しそうなことか。
普段煙草を吸わない私がそう感じるのだから某団体が頓珍漢な抗議をしたのも理解できる。
さて私の思う宮崎駿氏はがっちがちの男性脳人物なので思ったとおり
今回も気持ちいいまでの破壊衝動をカタチにしてくれている。
関東大震災、うねる衝動とエネルギーは私達には単純に恐怖の対象であるが
創造者にはおそらくそれに加えて畏怖と興奮もどこか感じるのではなかろうか。
美しい機体が空を滑空すると同時に粉々に砕け散る様も
相反して脳裏に浮かぶという再生と破壊のループ。
ヒロイン像に関しても毎度想定内の男が理想とする『儚げな女性はコレ』像そのまんまの安牌。
そして物語の随所随所でぽろぽろと誰もかれも簡単に泣く、泣く、泣くので
涙が安いなあ…と最初は思っていたのですが物語の演出として
観客を泣かせるために感動的なエピソードを挟みこんでいるというより
涙も日常のひとつでしかないといいたいのかなと感じた。
大切な人が死地へ向かう最中も移動中にも設計図をひく、
涙を落とし紙を滲ませてでも線をひく、ただひたすらひたむきに無心に先へと進む。
この衝動を情熱とか焦燥とか狂気とか何が一番あてはまるか考えたのだけど
「無心」が一番しっくりくるのかな…と思ったり。
駿氏のやんちゃな部分を切り取ったようなカプローニのデカダンさが
要所要所で重くなりそうな雰囲気を蹴散らしてくれるのが心地いい。
私にはこの作品は駿氏の自己投影と理想像の極限の映像化に思えたから
作った本人が泣いたというのも納得できる映画だと思った。