1.《ネタバレ》 現存する溝口健二作品の中でも、特にマイナーな本作のレビューを、簡単ながら書いてみたいと思います。
本作は夏目漱石の小説『虞美人草』が原作となっています。
夏目漱石の原作の方は未読ですが、元々、夏目漱石は好きなので比較的興味を持って本作を鑑賞することができました。
本作は1935年の作品ですが、他の1930年代の作品と比べても特に保存状態が悪いです。
常に“暴風雨の状態”で映画を観ることになります。
セリフも当然聞き取りにくく、部分的に字幕で補われたりしています。
ただ、戦前や戦時中の溝口作品のほとんどが戦火で消失してしまっていることを考えれば、現存しているだけでも有難いわけです。
本作の数少ない巷のレビューを読む限り、かなり評価の低い作品であることが分かります。
しかし、個人的には普通に楽しめました。
理由としては、この時代の溝口作品にありがちな、「女が男のために一生懸命に尽くし、男だけは成功して、その女はむごいことになってしまう」というパターンとは異なるものだったからです。
もちろん、本作『虞美人草」の骨格的なストーリーは、原作の夏目漱石の小説によるところなのでありますが、私は当の夏目漱石自体を元々好きなわけで、その点も本作を楽しむことができた所以かと思われます。
ただ、巷の解説によれば、三宅邦子演ずる藤尾という女性が、最後に自殺をするらしいのですが、本作ではその最後の大事な部分が欠けてしまっているのです。
そういう点から見れば不満を多少感じなくもないですが、古めかしい日本文学が好きな私にとっては、意外にも普通に楽しむことができた溝口健二作品でした。