1.スラムの住宅街。階上の窓から家具が押し出され、地面に落下するファーストショットから強度と重量感に満ち、重力を強く意識させる。
前作と比べてより低位置に置かれたカメラは、終始人物を地面に留まらせるかのごとく画面下半分の空間に捉え、背景の壁面を主体として浮かび上がらせる。
特徴的な深い陰影の中、経年を印すスラム地区の建物や壁面の混濁した色彩が醸しだす存在感は非常に濃密。テーブル上に置かれたグリーンの透明ボトル1本も豊かな色彩と光沢を画面に放つ。
一方で、移住先となる新しい集合住宅の鋭角的で無味無臭な白い壁は異質なコントラストを生む。
格別凝った照明設計を行ってはいない風でありながら、いずれのショットも豊かな明暗の領域をもって視覚を刺激する。
ラスト近くの屋外シーン。木々に反射する波光の揺れとカメラの緩やかな動きが美しい。