17.7年前に観た「秒速5センチメートル」は、最高に好きだった。
観たことが無い程のクオリティーのアニメーションによる美しさと儚さに胸が詰まった。
“新海誠”というクリエイターに類い稀な美意識と可能性を感じた。
が、残念ながらこの作品では、以前のような感動を殆ど感じることが出来なかった。
映し出される映像世界は相変わらず美しい。むせび泣くように降り続ける雨に包まれた街並は、さめざめ物悲しくもあり、美しい。
ただ、正直なところ、特筆すべきはそれだけの作品に終始してしまっている。
ネックとなった要素は、「青臭い」の一言に尽きる。
雨に濡れた新緑の臭いがそのまま漂ってくるように、ただただ青臭い。
経験に乏しい多感な高校生を描いているわけだから、そうなってしまうことはある意味必然だったとは思う。勿論、青臭くても良い映画は沢山ある。
でも、今作においてはその未成熟さが、どこまでいってもただ“浅はか”に映るだけで、徐々に不愉快にさえ見えてくる。
そしてそれは、次第に制作者自身の青臭さに直結しているように見え、紡ぎ出される言葉も、映し出される映像も、安直な自己満足に見えてきてしまった。
ただそれは、自分自身もしばしば陥ってしまいがちな“語り口”で、己の感受性の豊かさを他者に示したいという素人臭い願望の表れの重なるようで、少々身につまされた。
まあ、そんな”素人臭さ”と重なるようでは、やはり駄目なわけで。
主人公の高校生は、密かに靴職人を目指していて、そんな自分の夢と現実社会の厳しさ(のようなもの)との狭間で思い悩んでいる。
その描かれ方は、いかにも夢と現実の折り合いをつけている風だが、実際のところは決してそうではなく、その“折り合い”も含めて葛藤している自分自身に酔っているように見えて仕方なかった。
「靴職人」ってそこまで特殊な仕事かよと思うし、それなら「ヴァイオリン職人」を目指して“青臭さ”全開で突っ走る“天沢聖司”の方がよっぽど偉いわ!とまったく関係ない比較をしてしまった。
とにかく、現実の辛辣さを描くふりばかりで、結局は綺麗事を並び立てたばかりに見える映画世界に対して、まったく感情移入が出来なかった。