86.《ネタバレ》 「誰も知らない」と比べると、その穏やかすぎる雰囲気に驚く。YOUも毒が抜けて浄化されてしまった感じ。毒のない人物ばかりでちょっと退屈だった。
「花よりもなほ」も最後の“笑顔”を見るまで我慢するような映画だったが、この映画もあの海辺のシーンを見るまで我慢するような感じ。
夏場に田舎の祖父のところまで行く過程、過ごす雰囲気とかは好きなんだけどさ。
小津安二郎の映画にも通じる雰囲気。その雰囲気に共感を覚える者は多いのだろうが、俺はあまり共感できなかった。
のぼったり、おりたり、とにかくゆっくりと歩く映画だ。電車、バス、階段。
荷物を持ってもらう事よりも、父親を名前で呼ぶことをお願いする母。
でも「どっちか持とうよー(怒)」
歯磨きの場面は「誰も知らない」といい、是枝裕和の作品で幾度も挿入されてきた。
野菜を切る音、てんぷら、風呂場の割れたタイル。
子供たちの会話、夏休み、食事。割ったスイカは見えない。じいさんを動かすのは“音”。
写真に作文。ぼやける絵、遠目の写真。当の本人とって、自分の思い出はそれほどぼやけてしまっているという事なのだろうか。
窓ガラスに映る顔、遺影、ドアから出て遊ぶ子供たち、孤独でいたい爺さん、祖母の声をさえぎる子供の声、手で孫を誘う祖父、祖父を睨む父親(息子)。
家族の甘さに対する苛立ち、本業なのに相手にしてもらえなかった苛立ち。取り残されていく苛立ちと哀しさ。
それに対し妻は「ブルーライトヨコハマ」を懐かしみ、蝶を追って呑気ささえ感じさせる。
成長した息子と卒塔婆の数。大体それだけで事情は察する。ナレーションはいらない。
寂しいエンディング、そして天国でも暗示するかのような階段。
バスが去り、静かに坂を上り始める夫婦。
初めてハッキリ映る“絵”、意識する幼い頃の記憶の断片。
蝶、船、影、終盤やっと出てくる海・・・。