1.左半身不随の北川景子が差し出そうとする盆を慌てて支え、
彼女の煎れたお茶を美味しそうに頂くというシチュエーションを、
同一構図、同一カッティングの中、
錦戸亮と國村準の親子がそれぞれ別々のシーンで演じている。
即興なのか、演出通りなのか、二人のリアクションは実によく似ている。
それだけのことが、この親子と娘の秀逸なキャラクター描写・関係性の描写になっている。
レストラン窓際での北川・錦戸カップルの食事シーンが、錦戸と息子の食事として
反復されるのも同様だ。
その食事シーンの最後、成瀬作品のように窓外からのショットに切り替わって
サイレントの効果を醸すのも印象的である。
『黄泉がえり』のおでん屋のシーンのように、飲食のシーンをそれぞれ大事にしているのがいい。
夜の回転木馬の緩やかなローリング。その浮揚と下降の中でのぎこちないキスシーンの美しさ。その二人を見守る窪田正孝の視線の暖かさ。
ボールを放るアクションとその軌跡の響きあい。
國村・錦戸親子の罵り合いや、ワンポイント英語・中国語を使ったアドリブ感満点の
飾らない会話劇の魅力。
佐藤めぐみの突発的なビール瓶攻撃の鮮やかさ。
生まれたばかりの赤子を囲む病院シーンのドキュメンタルな長回しの迫真と幸福感。
ベッドでの二人の交わらない視線の劇。その万感のエモーション、、。
個々に書き出せばきりのないほど、映画の魅力が詰まっている。
何よりも、予告編の印象をいい意味で裏切る、お涙頂戴を潔しとしない塩田監督の自制的な手際にこそ泣かされる。