128.「ずいぶんと子供向けの”不思議の国のアリス”だな」
というのが、観終わった後の率直な感想だった。よく考えれば少しおかしな感想だ。
そもそもこの物語は、ルイス・キャロルが1865年に発表した児童文学であり、今作にしても、子供から大人まで楽しめる娯楽映画という位置づけであることは言うまでもない。
“子供向け”であることは、ある意味当然のことなのだ。
ならば、なぜそういう印象を持ってしまったのか。
その前提にあるのは、1951年のディズニーアニメ「ふしぎの国のアリス」の存在に他ならない。
このおよそ60年前の長編アニメの存在感が、物凄い。
決して大衆に媚びないそのシュールなアニメ世界は、ルイス・キャロルの原作が持つ根本的な”不可思議さ”を完全に表現すると同時に、アニメーションという表現方法を最大限に生かした芸術性と娯楽性に溢れている。
そして、その奇抜さは今尚少しも色褪せない。
今回の実写映画が、ディズニーの配給である時点で、ルイス・キャロルの児童文学の実写化というよりは、アニメ映画「ふしぎの国のアリス」の実写化であると捉えるべきだと思う。
そして、その実行者として、現在の映画界においてティム・バートン以上の適役は無かっただろうとも思う。
果たしてハリウッドきっての奇想天外な映画監督が、またもジョニー・デップと組み、あの不可思議な世界観をどのように映像化してみせるのか。そういう部分に期待は集中した。
結論としては、冒頭の感想に尽きる。
アニメ映画「ふしぎの国のアリス」の最大の魅力は、“不思議”なんて言葉を通り越して溢れ出る”毒々しさ”だった。
何も知らない幼子が観たならば、恐ろしくてその夜の夢に出てきそうな程に禍々しい。
そういう要素がこの実写映画には無く、比べると非常に“薄味”に思える。
莫大な製作費をかけた娯楽大作であるのだから、大衆に対する間口は出来る限り広げなければならなかったのだろう。
それでもティム・バートンならばと、もっとぶっ飛んだ“アリス”を期待していただけに、拍子抜けという感は否めない。
まあそれだけ半世紀以上前のアニメ映画が、ぶっ飛んでいるということだろうが。