85.見方によっては、ただ古くさいのですが、、、ふと考えてみると、恐ろしい作品です。、、、、、日本的な様式美、凄いですね。特に、開け放たれた屋敷の風情、女官の立ち居、そして美事なお亀顔の京マチ子の装束、化粧。、、、それに城下町の賑わい、武士の屋敷の郎等たちなど、、、。また、女に艪を漕がせ、子どもを背負わせ、女郎屋に行き着かせ、現実を生きる女たちが、ここにはしっかりと存在しています。、、、、そして、そうした日本的なものに、金銭欲、権力欲といった古今東西に普遍的なテーマが接ぎ木されている。、、、、、ただし、最も強く感じたのは、これが1953年の作品であること、つまり戦争が終わって7,8年しか経過していないということ。川辺のロケ地の風景は酷く荒れ果てていて、戦後の荒廃を十分に思わせてくれるものでした。、、、、そして、この映画を1953年に見た日本人も、ヨーロッパの人も、身近で親しくしていた人の何人かは必ず戦争で失っていたはずです。、、、、だからみんな、最後に、死んだはずの宮木が出てきたとき、その親しかった亡き人と、宮木とを重ね合わせて見たに違いありません。、、、、、そんな風に思うと、戦後を生きた無数の人たちの悲しみと源十郎の悲しみが混然として、最後の10分ほどは、涙を押しとどめることができませんでした。、、、、、、、日本的な美、日本的な生活、権力と財貨をめぐる普遍的なテーマ、そして戦争を民草の目から告発する強い意思、、、、この目配りはあまりに凄い。 【王の七つの森】さん [ビデオ(字幕)] 10点(2005-06-01 12:03:49) (良:3票) |
84.《ネタバレ》 観るのは5度目くらい。最初はVHSのvideoで画面もセリフも荒くて良く解らなかったですが、リマスターされた溝口健二生誕祭だったりDVDでも格段に見やすくなりました。カメラワークと光の使い方が凄すぎです。 森雅之と京マチ子の「朽木屋敷」のシーンは衣装・美術・照明・カメラ・音楽を含めての形式美が素晴らしい。溝口のサイレント作品時にはドイツの表現主義(ガリガリ博士等)に影響を受け「光と影」をかなり応用していたのですが、朽木屋敷でも姿を影で隠したりと伺えます。 また台詞を途中でフェイドアウトして流れるカメラで次のシーンを繋いだり、森雅之の入浴シーンでも京マチ子が着物を脱いで湯に入る所を影で描写し、カメラは逆の方向に流れてそのまま広い庭で寛ぐ二人へ繋ぐシーンなど絵巻のようだ。 カメラの連続移動で時空を越えるというのはテオ・アンゲロプロス監督ですが、影響受けたはず。 また、森雅之が故郷に戻ってからのシーンも秀逸で、森が家をグルッと一周するのを追うカメラワーク、田中絹代の陰影、彼女の表情と所作、それらが嵌り最高のシーンだと思います。これだけ計算してやられると俳優さんが大変じゃないかと思います。 なお、溝口監督は出来上がりに不満があったようで『「雨月」はもっとカラいものなんだよ。小沢栄の男ね、あれもラストであんな改心したりしないで、もっと出世を続けて行くように書いたけど、会社から「甘くしろ」と指示があった』と(キネ旬より)。 確かに男二人の欲の渇望からも、最後には見事に改心するという流れは溝口作品からすれば甘いと思ったのが、それでも前述の田中絹代のシーンで観る者を救済したのだからOKでしょう。 いずれにせよ、このような映画はもう作れないと思います。死ぬまで何度も観るのだと 【サーファローザ】さん [映画館(邦画)] 10点(2018-01-10 00:49:57) (良:2票) |
83.溝口健二初体験でござんす。いやあ、JTNEWSにお邪魔して以来、それまでだったら絶対に手を出さないような作品を沢山紹介して頂いて来たのですが、溝口作品はずっと手を出さずじまいでした。だって、何か「日本の様式美」だとか「幽玄の世界」とか「秀逸なカメラワーク」とか、オッカナイ言葉で語られてるんですもの。おまけに「溝口見ぬ者は人にあらず!」みたいな事を言うオッカナイおぢさまもいらっしゃるし(ニガ笑)。ということで今回勇気を振り絞ってレンタルしたのですが(ちなみにこの作品を選んだのは一番時間が短かったから・・・あ、そんな怖いカオしないでぇ)、なんつーか、腹にズンとくる作品でした。むっつかしい事はよく分からんけど、映像も音楽も緊張感があったし、かと言って重苦しいだけの「お芸術」作品ではなかったし。ここで描かれている戦国時代の荒廃と虚無は、少し前に日本が経験していた戦争の影響も大きかったんだろうなあ。偶然だけど少し前にTVでアフリカの紛争についての報告を見ていたので、ちょっとそれと重なっているように感じました。やっぱし戦争は社会の狂気の産物で、尚且つ個人に狂気をもたらすのだ、と改めて思った。 【ぐるぐる】さん 8点(2004-09-28 18:52:54) (良:2票) |
82.《ネタバレ》 強欲に取り憑かれた男の姿と、そんな愚かしい男に尽くしていく女の姿を平行して描くことで、人間の業が浮き彫りになっています。特に、男を世に送り出す為に自分をぼろぼろに傷つけてまでも尽くしていく女性というテーマは溝口監督が終生描いてきたもので、本作もその系譜を代表する作品です。男の為にとことん自分を犠牲にする女性と言ってしまえば、女性の自立が著しい現在では、多少古くさい感じもしますが、逆を言えば、男の方が女性から自立できていないとも言えるわけで、こちらの方は現在でも十分通用するテーマではないかという気がします。亡霊となって現れる宮木のシークエンスや、とりわけラストで源十郎がふらつきながら外へ出たあとの宮木の墓を映す滑らかなショットは、いつまでも女性に取り憑かれるように離れられない、男の業を象徴するシーンとして心に残りました。宮川一夫のキャメラも秀逸で、湖上シーンも見事ですが、若狭と源十郎のからみで、岩風呂から溢れ出る湯の流れを移動でとらえて、オーバーラップしながらなだらかに草原の遠景に移るシーンは絶品です。朽木屋敷のセットも素晴らしく、当時の大映のスタッフのレベルの高さがうかがえます。 【スロウボート】さん 8点(2004-01-17 01:41:33) (良:2票) |
81.「日出づる国」の幻想物語。息を呑むその美しさに、映画というものが芸術作品であるということを認識させられる。人の心の影に、欲に、そして小さな望みに「物の怪」は潜む。気付いたときに残るのは虚しさだけ。そしてもちろん、我々の心の中にも・・。 【紅蓮天国】さん 8点(2003-12-29 14:16:35) (良:2票) |
80.《ネタバレ》 溝口健二、代表作である。 まだ、こんな傑作を観てなかったか、と唸ってしまった。 見事、この一言に尽きる。 田中絹代を本で調べていたら、次のような記述があった。 撮影後、溝口が森雅之に、その演技の見事さにライターで火をつけたという。 田中は「私だってうまいと言わせてみせる」と思ったらしい。 まさしくラストの霊の田中は絶品である。 以後、溝口と田中は映画界で、力をみせつけあうかのように、張り合い、 田中絹代は同年、「恋文」(未見)という映画で監督までしてみせるのである。 【トント】さん [ビデオ(邦画)] 10点(2021-06-30 23:35:04) (良:1票) |
79.私は日本人ですので、外国映画祭の審査員ほどにはジャパネスク・ロマンに「おおっ」とシビれたりしないのですが。でも、この映像の幽玄なこと湿度の高いこと、目を瞠りました。ストーリーは「まんが日本昔話」をいくつか合わせたようなもので、驚くほどの展開は無いんだけれど、件の名アニメを実写したらこうなるんだろうなあと思わせるほど雰囲気が似ています。 廃屋だったはずの朽木屋敷に誘われ、いつしか凛とした豪邸に落ち着いているとき、こちらもいつの間にやら幻惑されているのです。明かりの灯る夕刻や、先代の兜の発する気や、妖女そのものの京マチ子らに金縛りに遭わされました。怖く美しかった。 戦が庶民らにとっていかに苛酷であったか、その描写も容赦なく厳しい。里に残した妻が槍の犠牲になる場面は俯瞰ショットで音も無く、素っ気ないけれどとても恐ろしい。 妻が遭遇した残酷さ、弟夫婦らが辿る愚かさと不条理、そして主人公が出会う異界。「昔話」のテーマがてんこ盛りの、見事な映像作品でありました。 【tottoko】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2018-02-27 00:12:43) (良:1票) |
78.僕も初めて見た溝口作品はコレ。それまで黒澤狂いで、邦画の最高傑作といえば「七人の侍」だと信じて疑わなかったからこの映画の凄さには衝撃を受けた。ラストの田中絹代のナレーションによる独白が悲しくて印象的。この映画を見て昔の日本映画を黒澤作品意外にももっと見てみようと思った。 【イニシャルK】さん [ビデオ(邦画)] 10点(2005-08-02 22:37:26) (良:1票) |
77.あっ!どうやら溝口監督作品、初挑戦という人がいるらしいけど、私もです。この前、何となく借りてみようかと思って借りてきて初めて観てびっくりしました。何とも言えない怪しげな雰囲気、日本の美学がここにある。そんな感じがして、面白かったです。やっぱりこの頃の日本映画って俳優が本当に素晴らしいです。そう思う今日、この頃であります。今度は「近松物語」に挑戦しようかと思っています。 【青観】さん [ビデオ(字幕)] 8点(2005-08-02 21:13:07) (良:1票) |
76.能楽ファンにはたまらない魅力がある作品だと思います。私は謎の若い女を演じた京マチ子の仕舞の出来をどうこう言えるほど能楽を見たわけではありませんが、能舞台では男の能役者によって面をつけて舞われる仕舞が能面のような顔をした京マチ子によって舞われ男性の謡(うたい)がバックに聞こえるのは官能美の極地です。 【かわまり】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2005-07-31 15:49:22) (良:1票) |
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75.私もぐるぐるさん同様、溝口初体験がこの作品。溝口という名が日本よりもヨーロッパのほうが知名度が高いということ、『雨月物語』がこのうえなく美しいということ、くらいは前々から耳にはしていました。で、いざ鑑賞。はじまってすぐに「え?これのどこが美しいの??」しかし最後まで、いや、途中まで見て納得。私はこの作品で言われるところの「美しい」の意味を取り違えていました。ここでいう「美しい」はモノクロであることを活かした美や目にやさしい美ではなく、構図とカメラワークで見せる美。とくにスローボートさんが絶品とおっしゃるところのシーンと大河内伝次郎ノ介さんが泣けてきたとおっしゃるシーン。あまりの美しさに2度目の鑑賞ではこの二つのシーンを何度も巻き戻して見てしまいました。 「溝口見ぬものは人にあらず」ですか..誰が言ってるんですか?(ニガ笑) でも日本映画の巨匠=クロサワの図式が定着している今日の日本において、そう言われるお気持ちもわかるような気がします。 【R&A】さん 8点(2005-01-05 15:38:08) (良:1票) |
74.不条理な死が連なる戦乱の世。女が死しても欲するのはささやかな条理。日常をつつましく生きる平凡。男が欲するのは条理からの脱出。日常をつややかに生きる野心。幻想幽玄なモノクロームの濃淡が、不条理と条理をきわやかに浮かび上げる秀作。 【彦馬】さん 8点(2004-04-07 18:30:26) (良:1票) |
73.時代は戦国の世。いうなれば武器を持てる侍のみが、地位と富を手に入れることが出来る狂乱の時代。男なら夢捨てきれず、妻子を捨ててまで出世欲や色欲にとりつかれるというのは分からなくはない。ところが世間はそんなに甘かろうはずはなく、分相応元のさやに収まる …と、なにやら教訓めいた大人の寓話。男なら耳がイタいのでは…。もちろん本作はストーリーよりも、東洋的な神秘性に包まれた溝口健二の世界観を堪能すべき作品でしょう。幻想的で幽玄な映像美、長廻しを多用した鮮麗なカメラワーク、京マチ子の妖艶溢れる演技、和楽器を取り入れた不気味な音楽 …等々。ベネチア映画祭銀獅子賞獲得も大いに納得の名画です。 【光りやまねこ】さん 9点(2004-01-05 11:39:45) (良:1票) |
72. 最初にみたのは高校生のころ。夢や希望も多くあったから,立身出世を夢見る主人公たちの気持ちとリンクしながらワクワクしながら見て阿浜や高貴な屋敷の亡霊話にゾッとした,と言う感じで見ていた。時がたち,それなりに家庭を持つようになると,男の理不尽さ,妻や子を放っておいた事,妻だった女性に対しての気持ちなど感じ入るところが多数ある。また40代過ぎてみると違った感じをもつのだろうか。 【蝉丸】さん 8点(2003-11-17 21:41:45) (良:1票) |
71.京マチ子、田中絹代のふたりが幽玄と現実の対比のようですごかった。フィルムが古いのか画質がわからない部分が多々あって残念だった。 【omut】さん 7点(2003-08-06 01:38:30) (良:1票) |
70.《ネタバレ》 戦国時代。人が集まる町では、節度ある町民たちによって、繁栄が保たれているものの、農村は落ち武者の襲撃に会い、道中は賊が跋扈する混沌とした世界設定。時代の動乱の中、農村に暮らしながらも、野心を胸に、動かずにはいられない男たちと、平和と安定を望む女たちを描いているのですが・・・最終的に女の生き方の強さを、まざまざと感じさせる作品ですね。常に焦燥感に駆られて足掻いている男の生き方ってなんなの的な。あと、とにかく、映像がすばらしいです。農村から町に向かう道中、船で漕ぎ進む先の霧に煙る水面の幻想的風景。主人公が迷い込んでしまう、朽木屋敷での妖艶な誘惑。直接的な表現を排して、なお妖しく艶やかなところは、海外作品では、なかなか見られない日本映画の真骨頂でしょうか。シーンのつなぎでの地を這うカメラワークは印象的でした。また家屋内での、蝋燭を光源とした光と影の繊細なコントラスト。白黒映画で、これだけ幻想的魅惑的表現が可能なのかと驚きました。日本映画のスペクタクルに付き物の安っぽさが微塵も感じられないことも驚きでした。もう、日本映画は新作でも半分は白黒でいいんじゃないかと思ってしまいました。 【camuson】さん [DVD(字幕)] 8点(2024-10-10 18:23:27) |
69.《ネタバレ》 過去何度も観ているので今更書くこともないが、溝口監督の様式美の集大成的な映画です。内容的には他にも優れた作品を撮っておられるが、原作が古典なので内容が教示的でストーリーに深みが無いのは仕方がない。 只、京マチ子の妖艶な演技には圧倒される。同時期の羅生門でも似たような役柄を演じており、やはり強烈な印象を残している。 又、私の大好きな男優森雅之の存在がgoodです。やはりこの方が出ると作品に重厚感が感じられる。 日本映画に一番勢いがあった時代、まさに黄金期の傑作です。 【とれびやん】さん [インターネット(邦画)] 9点(2023-12-19 11:11:11) |
68.10年以上前にDVDを借りて観たときも宮川一夫らしい映像だな、という以外何も残らなかった。 今回、甲斐荘楠音展を観て、甲斐荘楠音がアカデミー賞の衣装デザインでノミネートされていたということを知り、興味を持って再鑑賞。そうすると宮川一夫もそうだが甲斐荘楠音もいい仕事しているんだなあ、と初めて気が付かされた。 また、その気づきのおかげで、この時代の日本の俳優の所作がものすごく丁寧で美しいことにも気が付かされた。 とはいえ、やはり凡作は凡作としか感じられなかった。 私程度の感性の持ち主は、よほど色々な視点を獲得してからでないと、この映画を評することはできないのだと理解した。 【みんな嫌い】さん [インターネット(邦画)] 5点(2023-08-13 11:04:16) |
67.《ネタバレ》 映画の作り、名優らの演技はすばらしいですね。本当の当時の時代を感じさせる。 今、大河ドラマを筆頭に、戦国時代ものがあまりにも健美とコメディ、チャンバラ踊りを映していて、 戦上で村民、町民の家財略奪、強姦が当たり前であった姿を 今のドラマ制作者はただ一人も表現できていない。 日本の時代劇も、どんどんファンタジーものとなり下がった。 今一度、現在の時代劇製作者は誰か一人でもよいので、中身のある、過去の時代の生きざまを 映す者が現れてほしい。 【cogito】さん [インターネット(邦画)] 7点(2023-06-11 17:52:02) |
66.《ネタバレ》 久し振りに再見しましたが、やはり面白いですね。特にラスト、源十郎が村に帰って来て宮木と一夜を過ごすシーンは、改めて観ると(技巧的にも演技的にも)最初から最後まで凄まじい完成度だと思いました。もちろんそこまでも(全体としてもコンパクトサイズなワリには)お話の内容も含蓄もミチッと詰まっていて(=人の物語としても、或いは人でないモノの物語としても)その点でも完成度が高いなあ、と。 中でもやはり、京マチ子さん演じる亡霊とゆーのは、このごく生々しい物語の中でも一際「超常のモノ」たる存在としての好い意味での「浮いた」感じが見事でした。それは彼女が備える類稀なルックスの効果も確かに大きいとは思うのですが、もう一つ、所作の巧みさも非常に効果的だったと(今回改めて)感じたのですよね。劇中でも実際に能を舞うシーンがありましたが、その他のシーンでも多分に日本舞踊的とゆーか、着物を着たうえでの滑らかで・しとやかで・かつ艶やかな種々の動作とゆーのが、実に美しくも妖しく(スペシャルなモノに)感じられたのですね。コレは類似の映画として『怪談』の雪女役・岸惠子さんを観た時にも感じたコトなのですケド、だからコレって現代で年頃の役者に演らせよーとしたってモ~ちょっと中々に無理だろーな…とは思ってしまいましたよね。。 【Yuki2Invy】さん [インターネット(邦画)] 9点(2023-02-26 16:40:05) |