1.《ネタバレ》 渋谷の宮益署は夕方6時を過ぎてのんびりとした雰囲気に包まれていた。刑事課の部屋に若い男(山崎勉)が入ってきて「刑事の山本さんいらっしゃいますか」と尋ねた。帰宅しようとしていた初老の刑事(志村喬)が「わしが山本だが」と答えると、男は突然拳銃を突きつけて在室していた他の三人の刑事も武装解除して部屋に立てこもった。実は男は人違いをしていて、恋人を射殺した山本和夫刑事(加山雄三)をねらっていたのだが彼はまだ署に戻っていなかったのだった。 エド・マクベインの『殺意の楔』が原作だそうで、古典的な密室限定サスペンスです。密室と言っても、刑事部屋に三回も人が入ってくるのでどんどん人質が増えてくるのに、肝心の加山雄三がなかなか帰って来ないと言うのがサスペンスになっているのです。山崎勉はニトログリセリンを持っているので、人数が多い刑事たちも手が出せない。加山雄三は奥さんと食事をしたり、射殺した女の家に弔問に行ったりしているのを並行してカメラは映してゆきます。 ここまで観ていちばんイラつかされるのは、加山がまるで若大将みたい陰がない坊ちゃんで、正当防衛とはいえ女性を殺してしまったという苦悩がまるで伝わってこないところです。対照的に山崎勉は死んだ恋人のことを嘆くばかりで、熱演だとは思うけどキャラとしては深みに乏しい。貧乏だが真面目な恋人同士だったことは回想映像で語られるけど、なんで女が麻薬取引の現場にいたのかが説明されないのが作劇としてはとても不可解でした。刑事部屋に閉じ込められた人々と山崎努との駆け引きは見せ場として重要なのですが、どうも監督のサスペンス演出にキレがないのであまり盛り上がりませんでした。それでも、志村喬や土屋嘉男など刑事たちの海千山千ぶりは、観ていてなかなか面白かったです。 ラスト、事件が解決してからやっと加山雄三が警察署に到着して、「救急車が来てましたけど、何かあったんですか?」とボケをかますんです、これには笑いました。奥さん(星由里子)まで犯人に騙されて殺されかけたってゆうのにね、まったく…