12.《ネタバレ》 最近ではよくあるAIに人間が乗っ取られる的なシチュエーションのストーリー。とそんな言い方をするとありふれた話という印象を与えてしまいますが、実際世の中にこれだけITが溢れている社会ならこういう話が増えてくるのも無理ないことだとも思います。
「のぞみ」と呼ばれる医療用AIが国に認可され、その認可を皮切りに社会に爆発的に拡散したそれは医療用AIにとどまらず、そこで得たビッグデータを活用して車の運転やスマート家電などさまざまな分野に食い込んでいきます。また「のぞみ」は医療用AIという立場から、それが収集するビッグデータは、その人の健康状態はいざ知らず、遺伝情報を取得するためにその人の家族構成や家族の病歴などかなりセンシティブな情報ばかりが集まるところも特徴です。さらに保険や金融にも紐づけられているそれは、成立すれば本当に「第4のインフラ」と呼ばれるくらい生活に欠かせないものになるのだろう。成立すれば、ですが。
こんなシステムが現実にあったとして、実際どうなんでしょう。私個人はマイナンバーカードですら持ちたがらない性格でして、色々紐づいて便利、とかポイントもらえます的なこと言われても、誰かに自分のデータを見られたり管理される気持ち悪さの方が勝ってしまって未だにマイナンバー制度反対派です。映画を見ながらも、どちらかというと反対派目線で見ていました。
逆に、これが普及できたというならかなり巧みな導入をしたんだろうなと思いました。それこそいま現実でおこなっているマイナポイントとかそんなエサで人を釣るようなその場しのぎの方法ではなく、本当に必要なことだと世の人にきちんと必要性を理解させたかあるいは導入のハードルを限りなく低くして気軽に登録するようなシステムにしたんだろうなと想像しました。
ちょっと話の本筋からは離れたことですが、現実っぽいSFだからこそより詳細を想像してみることができました。
さてこの『AI崩壊』はというと、上述のようにAI「のぞみ」が社会インフラの一角を担うほど普及した社会。だが、それは都市部などのある程度都市インフラが整っている場所に限っての話で、むしろ田舎の方ではかつてより地域格差が生まれたことにより寂れが進んでいるところも出てきていた。人間についても同様で、AIの普及によりAIに取って代わられる仕事が増えた結果、仕事につけずあぶれる就労世代が増加し、そんな人たちが「AI反対」のシュプレヒコールを上げる、そんな世の中を描いた作品。
ここからは個人的なAI社会に対する考えですが、確かに今現在でも少し前は人間がやっていた仕事が無人機で行うようになって来たなと思うものがあります。例を挙げれば、<高速の料金所><お店のレジや受付><駅の改札><ガソリンスタンドの給油>など。ですが同時に、そんな仕事あるの?と思うような新しい仕事もたくさん生まれています。代表的なものが<Youtuber>、他に<フードデリバリスト>やITの普及に伴う<SEなどの各種IT技術職><ドローンパイロット>など。機械が増えればそれを管理する技術者も比例して増えるはずなので、社会問題になるほど人はあぶれないだろうと思います。
それよりむしろ人が職を失う原因となるのは過剰なまでの「コスト意識」じゃないかと考えます。上記の無くなった職業もその理由の殆どは「人より機械のほうが長く働けて安価だから」という理由がほとんどのはずで。企業も官公庁も効率化・省コストという名目でどんどん雇う人を減らしていく傾向にあります。「人はいらない」と従業員を減らすくせに無給(休?)の研修員やボランティアはどんどん使うという矛盾が起きています。全て「コスト意識」が原因のように見え、AIはその一部でしかないと思われます。
ちょっと映画の話からは外れましたが、そんなことを考えたりしながら鑑賞させていただきました。
よく人は、「他人に何かを求めるからには自分もそれを求められる覚悟はあるか」というようなことを言います。作中の桜庭や副総理のような思想は過激なようにも思えますが、ひたすらに合理化を求め効率化を求めてきた人類が、逆に自らに合理化と効率化を求められ間引きされるとしたら、仕方ないのかなとも思ってしまいました。
AIと人類の関わり、現在とこれからの社会を考察するのに良い材料となりました。