58.《ネタバレ》 ウッディー・アレンは斜に構えたインテリ監督と言ったイメージを持っていたので今まで敬遠していました。
本作の印象としては脚本の整合性と安定した世界観により、人が殺されたり不貞を働くシーン等をブラックユーモアとして作品から浮かずにストレス無く見ることが出来ました。
ロートレックのポスターの様なレトロな雰囲気で、尚且つ暗部を強調し奥行きを持たせている映像は、20世紀初頭のアメリカでありながらヨーロッパにも見えるような美しさが有りました。
そしてその映像美を支えているカメラワークが素晴らしかったです。
オリーブの殺害の嫌疑をニックがチーチに探りを入れる長回しのシーンで、セットの奥行きを活かしての演出にドリーでフォローしつつ、ニックが確信を突きチーチに詰め寄る所でカメラが軽く回り込みながらパンをしてチーチの表情を捉える動きは俊逸ですし、照明もハイライトと暗部のコントラストで緊張感を出す見せ方になっています。
作中で随所に見られるこれらのカメラワークの何よりも素晴らしいのは、作品の本流であるストーリーや演出、雰囲気を一切邪魔すること無くさり気なく、必要に応じて使われていることです。
この様に素晴らしい構成要素が多々あったのに、それ程作品には入り込めませんでした。
理由としてはテンポをもう少しだけ速めても良かったのではないかという所と、コメディにしては盛り上がりが弱く感じた所、話の結末が安直過ぎるという所です。(コメディなので安直な方がすっきりするのですが安直過ぎるのもどうかと思います)
しかし、正直に言うと一番の理由は監督に対する自分の先入観だと思います。
良くないとは思いながらも残念ながら結局は最後まで拭い切る事は出来ませんでした。
カボチャが嫌いな私はどんなに美味しいパンプキンパイも遠慮してしまいます…。
冒頭で斜に構えた監督と評しましたが、私の方が彼の作品に対して斜に構えた形で見ていた事になります。
映画の見方に対するレビューがあったら、恥ずかしながら今回の自分のそれは1点か2点でしょう。
映画は作品から自分について教えられることが有りますが、まさかコメディで自分の欠点を認識するとは…。
しかし、本作を見て機会があれば彼の作品をまた見たいと思いました。
私の中にある彼の評価を覆らせてくれる様な作品に出会える可能性を感じさせて貰えましたし、是非そうなることを願っています。