147.《ネタバレ》 「映画の中に入り込む映画」という、非常に夢の有る一品。
といっても、メルヘンな香りは控えめであり、主人公も「白馬の王子に恋する女の子」ではなく「タフガイ刑事に夢中になってる男の子」って辺りが面白いですね。
作中には色んな映画の小ネタが散りばめられているし、それらの元ネタを知った上で鑑賞すると更に楽しめるって辺りも、非常に男の子的で、オタク的。
「強くてカッコいいのに、どこか惚けた魅力が有るし、深刻に悩む姿も似合う」という、アーノルド・シュワルツェネッガーの魅力が存分に描かれているって意味でも、大満足の出来栄えでした。
特に感心させられたのが「映画の世界と現実の世界、二つの世界を舞台にしている」って設定ならではの面白さが、きちんと描かれている点ですね。
主人公のダニー少年が「自分が『ヒーローの味方』なら危険なスタントをしても成功するけど『コメディの脇役』なら失敗してしまう」と、映画世界の法則について考える場面なんかは、特にお気に入り。
こういう映画の場合(主人公は幼い少年なんだから、アクション映画の世界では殺されないはず。つまり、緊迫感が生まれない)って流れになりそうなものなのに、それに関しては「劇中映画の『ジャック・スレイター』にて、ジャックの息子が殺される場面を描く」「つまり、主人公のダニー少年も映画の世界だろうと死んでしまう可能性が有る」と序盤の段階で示し、問題点を解決している辺りなんかも上手い。
悪役のベネディクトが魔法のチケットを使う際に「トワイライト・ゾーン」の音楽を流したりする演出も良いですね
確かにベネディクト目線なら「自分が映画の中の住人だと気付いた男の物語」となる訳で、如何にも「トワイライト・ゾーン」的だなと納得。
終盤、それまでの明るかった映画世界から一転して、暗い現実世界へと舞台転換する訳だけど、その際にベネディクトが「売春する女」「靴を盗む為に人を殺す男達」という現実世界に呆れ、こちらの方が悪人にとって住み心地の良い世界なんだと悟る流れも、皮肉な味が有って良かったです。
難点としては……
クライマックスで登場する黒衣の死神について「皆も『第七の封印』くらいは知ってるよね?」とばかりに、説明不足のまま、さも当然のように描いてる辺りなんかは、流石に気になりましたね。
映画の中で撃たれた際は「防弾チョッキの御蔭で助かった」という描写であったにも関わらず、ダニー少年が「映画の世界に戻れば、撃たれたジャックは助かる」と考え、事実その通りになってしまう辺りも、観客が置いてけぼりな感じ。
後者に関しては特に致命的であり、そういう展開にするのであれば、序盤で撃たれたジャックが助かる理由も「こんなの掠り傷だ」と言ったりして、防弾チョッキなどには頼らず、もっと明確に「映画の世界なら撃たれても平気」と伏線を張っておくべきだったと思います。
そんな具合に、作り込みの甘さも目立つんだけど……
基本的には好きな映画だし「長所」というよりは「愛嬌」が目立つという、どうにも憎めない作りでしたね。
ラストシーンにて「俺はもう人を撃ったり、家を叩き壊したりするのはゴメンだぜ」「生まれ変わるんだ」とジャックが語っているのも、当時アクション俳優からの脱却を考えていた(その後、結局アクションの世界に戻ってきた)シュワルツェネッガー当人の姿と重なるものが有り、今となっては味わい深いです。
こんな事を考えるのは不謹慎かも知れないけど、いつかシュワルツェネッガーが完全に映画の世界から姿を消した際には、数多の代表作を押し退けて本作を鑑賞し、ラストシーンで去っていく彼の姿を見届けたいなって……
そんな風に考えてしまう、不思議な魅力を秘めた映画でした。