6.《ネタバレ》 昭和初期の越前の山奥。雪がそぼ降る冬のある日、亡くなった父親の跡を継いで竹細工で生計を立てていた喜助の元に、美しい女性が訪ねてきた。芦原から来た女性は玉枝と名乗り、父親の墓参りに来たと言う。敬虔に墓参りをする玉枝に惹かれた喜助は、その後、芦原に玉枝を訪ねる。玉枝は遊女だった。喜助の父親が玉枝の馴染み客だったので墓参りに行ったと言う。玉枝のいる遊郭に何度か訪ねるなか、身請けがあるかもしれないと聞いた喜助は、150円もの大金を玉枝に渡し「結婚してほしい」と言う。喜助の願いは叶い、ある日、嫁入り道具とともに喜助のところに来た玉枝。二人の新婚生活が始まるが、喜助は仕事に打ち込むばかりで、玉枝と同衾しようとしなかった…。
本作の魅力は、二人の繊細な気持ちのすれ違いと、それが生む悲劇を見事に描き出したところだ。
喜助が玉枝と同衾しようとしない理由は、彼の父親がかつて玉枝と同衾したと思うことからの複雑な感情だった。精神的には心から玉枝が好きでも、肉体的に愛することに抵抗があったのだ(劇中で、なぜ一緒に寝ないのかと聞く玉枝に「(玉枝が)母親に似てるから」と答えるところからマザーコンプレックスとする解説もあるが、僕はこの説を採らない)。
結婚後しばらくして、ひとり留守番していた玉枝のもとに、喜助の作った竹人形の取引のため、京都の人形店の番頭・忠平が訪ねる。忠平は玉枝の昔の馴染み客だった。酒をふるまわれていた忠平は、とつぜん玉枝に迫る。かつての馴染み客だったからか、取引先という弱みか、あるいは喜助に抱かれず体がうずいていたのか、玉枝は忠平に抱かれてしまう。
そんなことはつゆ知らず、玉枝への複雑な気持ちから精神的に荒れていく喜助だったが、かつての玉枝の遊郭で同僚だったお光から「父親は玉枝と一度も寝ていない」と聞く。憑き物が落ちたように晴れ晴れとした表情で玉枝に迎えられた喜助。ようやく玉枝を抱こうと思ったが、玉枝が突然吐き気を催す。玉枝は忠平の子を宿していたのだった。
最終的に玉枝が亡くなるところまで、ただただ幸せに生きたかった二人に訪れる運命のいたずらに、観ているこちらの心は痛みながらも、緻密に描かれた本作の構成に感心するのである。
華のあるキャスティングも本作の魅力だ。玉枝を演じる若尾文子の、親しみやすさのなかにある妖艶さはもちろんだが、忠平役の西村晃の、男の嫌らしさを体現した姿、お光役の中村玉緒の人の良い親しみやすさ、さらに、ラスト近くで登場する船頭役の二代目中村鴈治郎の、年配の男が持つぶっきらぼうな優しさとその存在感(ちなみに玉緒と鴈治郎は親子共演だ)。
そして、彼らを映し出す映像の美しさ。特に冒頭の墓参りの雪景色は絶品だ。宮川一夫の撮影の力だろう。
決して超大作ではないが、郷愁を誘う美しい風景のもとで描かれる悲劇。喜助の葛藤に同意出来かねる者もいると思われるが、ドラマを効果的に描くために必要な装置だったと僕は思いたい。