1.「雄弁は銀、沈黙は金」のごとく、無声からトーキーへの革新に難なく順応し、それぞれの特質を洗練させてみせたルネ・クレールのサイレント賛歌であり、トーキー賛歌である。
「喜び」はオープンカフェのヴァイオリンや、レストランのオーケストラ、アパート前の路地のシャンソンの音色によって変奏され、「悲しみ」は様々な破砕音(ガラス、花瓶)の形で変奏される。
それも直接的な視聴覚の融合だけではなく、音と主体(人物や対象物)を分離する演出も絡めながらドラマ効果をあげている点が匠の技だ。(サイレント演技する役者と演技指導する監督の声。あるいはオフ空間から響くガラスの割れる音と、後のシーンで心象として活きる「割れたガラス」のショット。アパート入り口前で仲睦まじく語り合う恋人同士の会話を、路上のシャンソンの歌声によって消すロングショットなど実に多彩。)
撮影所の監督部屋で衣装替え中のフランソワ・ベリエとドア外のマルセル・デリアンが、監督役:モーリス・シュヴァリエの仲介により顔を合わせぬまま挨拶代わりの握手をする。後に恋仲となる二人の手と手が結ばれる一瞬のクロースアップ。その短いショットだけで、二人が惹かれあうだろう予感を強く印象付け、物語る力。
二人が登っていく夜のアパートを外側から緩やかに上昇して追うカメラの慎ましさ。
アパート部屋の小さな窓から望むパリ夜景の情緒を実現する美術の技量。
馬車のシーンで、スクリーンプロセスとの絶妙なシンクロを見せる的確な照明操作。
撮影所の洗練された技術が活きる、撮影所の映画だ。