3.《ネタバレ》 この監督、草原趣味がある。草原を描くととてもいい。セルゲイ君登場のあたりの悠々とした演出。眠りと戦うために一生懸命はしゃいで運転しているトラック。何かを発見しあわてて戻り、間違って川に突っ込む。浅い水に浸かって呆然とする、ってのは『機械じかけのピアノのための未完成の戯曲』のラストをほうふつとさせる。で、心づくしの歓待になる。この心づくしの感じが丁寧に演出されていてよかった。気を許せることを強調しすぎず、ちょっとテレもあったりし、でも気を配りあってて、女の子のアコーディオンとか(思いのほか本格的で唖然とするセルゲイ君)、こういうところを自然に演出できるってのは、なかなかの力量だ。羊の解体のとき、切られた足先を子どもがバチに見立てて太鼓叩くみたいに遊んでいるスケッチ。宴も尽きて月のアップからゆっくりカメラが回っていくと川に突っ込んだままのトラック、なんてのも実にいい。翌朝、しぐれる中での夫婦の語らいも味わい。で町へ出るんですが、ここらへんからちょっとトーンが違ってきて、中国における少数民族とか、ロシア人のあり方とかいったお話を聞かせていただいてる、ってな感じになってしまう。ちょっと剥き出し。自分たちの基盤が不確かになっていく感覚が、チェーホフに通じるところもあるけど。前半の語り口が絶品だっただけに、若干残念。でもいい映画です。