4.《ネタバレ》 相当おもしろい。
鑑賞後、ちょっとユーゴをWikipediaで調べるとさらにおもしろさが増す。鑑賞前に調べるのもおすすめだが、鑑賞後にも確認するとおもしろさが増す。
出張する父親は会社勤めをしている。ある程度普通に企業が存在し、出張までしていて、ビジネスも順調だという。特殊な社会主義のありようが伝わってくる。
国家警察の義兄がどうやら愛人が原因のアル中でクビになっており、それでも普通に生きているというのも不思議な世界だった。社会主義というとソビエトを連想するが、ソビエトを拒絶した社会主義という、いかにもよく分からない社会がピリピリっとくる。
主軸になっている、強制連行による家族の崩壊と愛情に対して、どういう訳か父親の性癖をおもしろおかしく描いてしまう。この絶妙な配分のせいで、もの凄い悲劇なのに全然悲劇性が感じられないというのが巧い。父親の情事を目撃してしまう息子の父親とその行為に対する視線や悪戯なんて笑ってしまう。よく思いつくなこれ。
感動パートとして少年少女の出会いと別れが描かれるが、語り部自身の思い出話も挿入してしまう。力業だ。しかし、少女がくれたやつにはなんて書いてあったんだなんて忘れてしまう息子パート直後の結婚式、もの凄い。ここでの父親はいつも通りに見えたのだろうか。いつも通りの生活に戻ったら安心してしまったのだろうか、まだ明るいうちに本当の眠りにつく息子が、夢遊病で出歩く。また出歩いているかと思ったら笑っている。どうやら夢だったらしい。
やっと日常が帰ってきた様だ。いろいろな風刺が込められていて、日本人には資料なしには理解できない台詞や設定がいっぱい入っている。「金がすべてだ」という台詞一つとっても、日本人が想像する「金がすべて」とは意味合いが違う雰囲気がありありと伝わってくる。いろいろな要素と、主張に大変満足できた。
残念なのは、ユーゴスラビア紛争で原盤が消失してしまったこと。現物のきちんとした雰囲気で鑑賞すればさらに満足度は高かっただろうことを考えると無念。