1.《ネタバレ》 ダンスシーン以外ほとんど音楽的要素を排した静謐な緊張感と、主に幾何学的な建築物のラインに取り囲まれた深い構図の中、三角関係となる男女の機微が滲み出る。
その有機的なショットの連なりが素晴らしい。
モノローグによって献身と無力感の葛藤が雄弁に綴られるヒロインと、業務によって放射線被曝した男(アレクセイ・バターロフ)の寡黙と抑制との対比が、ラストのメモの切なさを増幅する。
映画の後半、夫婦となった二人は男の田舎へ帰郷する。
画面一杯の空と並木。開放的なロケーションに唯一心が安らぐ場面だ。
実家で会食中、被曝の苦痛で震える夫の手に重ね合わさる妻の手のアップ。温もりある木材の壁を背景に、別室でそれぞれベッドに横臥しながら、男の独白を聞く彼女。
そして、父親との別れのシーンの情景も忘れ難い。1本の線路上に立つ家族のロングショット。絶妙な雲の表情。列車が離れると共にトラックダウンして小さくなっていく父親の姿。
その哀惜の構図が、永遠の別離を予感させる切ないショットだ。