1.《ネタバレ》 ジュール・ベルヌの小説『征服者ロビュール』と『世界の支配者』をリチャード・マシスンが足して二で割って脚色しています。おなじみのモネ船長みたいな科学者が高速で飛行できるまるで戦艦のような飛行船を開発、世界中の軍備を放棄させるために地球を飛び回って列強の兵器(おもに戦艦)を爆撃して破壊してまわります。この飛行船アルバトロス号の船長がヴィンセント・プライス、調査に向かってプライスに拉致されてしまう面々には無名時代のチャールズ・ブロンソンがいて、彼が善玉側のリーダーといった感じです。もっともリチャード・マシスンは「ブロンソンは致命的なミスキャストだ」と怒っていたそうですが。このアルバトロス号は飛行船の背中にヘリコプターみたいなローターが林立するレトロな形態、まるでカレル・ゼマンの『悪魔の発明』に出てくるような、というかデザイン自体がかなり影響を受けていると断じます。原作ではこの戦闘艦は地上では戦車の様に走行し戦艦の様に海上を進みなんと潜水艦の様に潜航できるというスーパー・ウェポンなんだそうですが、さすがにそこまで凝ったマシーンを再現する根性は製作陣にはなかったみたいです。 この映画の最大の弱点は、製作したのがディズニーやユニバーサルではなく、AIPというロジャー・コーマンと組んでドライブインシアター向けのC級映画を量産していたプロダクションだったことでしょう。とにかく特撮と合成が驚くほどチープ、冒頭の噴火シーンなんてただの書割ですから唖然とします。どうもこの映画で実際にプロップを製作したのはアルバトロス号のシーンだけみたいで、米英の戦艦を撃沈するところは他の映画の特撮シーンの使いまわし、19世紀後半の時代設定なのに英戦艦に至ってはどう見てもナポレオン戦争時の戦列艦ですからねえ。あとなぜかエジプトに飛んで陸戦中の勢力を爆撃するのですが、これは39年の『四枚の羽根』のシーンをまるまる使っていて、この流用をしたいがためにエジプトに行かせたことはバレバレでした。でもこの『四枚の羽根』の戦闘シーンが大迫力でしかもカラー、皮肉にもここがいちばん盛り上がるシークエンスです。 チープなところはどうしようもないけれど、ドラマ部分は意外とよく撮れています。それはヴィンセント・プライスの好演というか存在感に帰するところが大だと思います。最初に米艦を撃沈するときにはすごく躊躇を見せるのに、エジプトになるとまるで殺戮を愉しむかのような壊れっぷり、理想に走りすぎた人間の狂気がよく出ています。ラスト、部下たちが退艦命令を拒否してプライスとともに死を選ぶところなんか、思わずジーンとしてしまいました。