3.《ネタバレ》 「僕は甘いものを食べないと・・・」というクスッと笑ってしまうようなピエールのベンチでの会話。「オイオイどうするの?」と楽しくもドキドキしてしまう告白されたマリー、花束でオロオロ。同情しながらもなんだか突き放して眺めてしまい、さらにやっぱり同情してしまう後半のブノワ。観ていて、純粋な観客として楽しめた映画です。この映画の中では、観ている側が登場人物に感情移入をするための”とって”がほとんどありません。最初、ピエールの性格は不明で彼の行動は不審ですらあります。突然のマリーのブノワへの寛容な愛もよくわかりません。後半ではブノワが何故、あの段階で二人の関係への感心が爆発したのかもわかりません。しかし、映画を観ただけで、登場人物が何を考えて、どう行動したかを全て把握する事が出来るわけもありません。現実の世界で、子供や配偶者でさえも理解しがたい時はいくらでもあるはずです。僕には、異国の特殊な関係に陥った恋愛の当事者の心を共有できるとは思えません。だから、僕は観客に徹します。これはそんな、観客の僕が、少し離れた場所からクスクス笑いながら、ちょっとドキドキしながら、本当に楽しんで観ることが出来る映画なのです。たまに理解しやすい映画を観ると、登場人物が思わせぶりな心情の吐露をすることがあります。「そんなこと現実にないよな。」と苦笑してしまいますが、よくある手法です。しかし、この映画にはそんな方法で登場人物の心情を共有して欲しいとは思っていないようです。3人は、3人とも愛すべき人間として描かれています。特に、利己的さと知的さを併せ持つピエール、シャルル・ベルランのパーソナリティーは素敵です。暗さと我儘とを輝かしく見せたシャルロットの演技も素晴らしい。気弱さと大胆さをあわせたイヴァンも良かったと思います。この3人が知的に、利己的に、横暴に、矛盾を持って会話する妙は、単純に観えて非常に緻密で、この映画に奥行きを持たせています。3人の素敵なキャスト。2人の男と1人の女というフランス恋愛の王道を歩みながらも素晴らしいコンセプトを光らせたストーリー。最後のエンディングの秀逸さを加味すれば、この映画は1級だと僕は判断します。