1.《ネタバレ》 ハスケル・ウェクスラーという人を全く知らなくても、撮影監督という職業に興味がなくても、親子の物語、ウェクスラー家の歴史として充分楽しめる内容。
私だって全然知らなかったけれども、ハスケルって80過ぎても坊ちゃん気質なヒト…というふうに思った。富裕層の出身ということは、おぎゃあと生まれてから軍隊に入るまで、身の回りのことは全部メイドがしてくれたということです。後片付けや掃除というものは、「他人のやる仕事」と無意識に思っている。
そして恐ろしいことにそういう感覚は、軍隊を経験しても、消えないみたい。
監督とモメては撮影を降板し、そのたびに他人に後始末をやらせるわけですね(息子のお守りまでコンラッド・ホールにさせている)。これが「坊ちゃん気質」でなければなんでしょう。
ジェーン・フォンダの言う「下降欲」に駆られて反戦デモに行ったりベトナムで撮影したりするのも「坊ちゃん気質」としか言えないものです。
さて、顔だけ見れば母親そっくりで、ハスケルに似ているところが全くない次男のマークですが、40も半ばにならないと「ふんぎり」がつかなかったというのもちょっとだらしないよね。もしかすると、母親がボケたことが、こういうドキュメンタリーを可能にしたのかもしれない。
そんなに父親が嫌いなら、別の職業を選べばいいものを、ちゃっかり七光りを利用しながら同じ道を進んでいるところも、こすからい感じは否めない。
赤緑色盲なのに撮影業を50年もしていたという驚愕の事実を公表したことも、「復讐」の一部だと私は思う。赤緑色盲はXに乗って劣性遺伝するから、ハスケルの母が保因者で、ハスケルの母の兄弟に赤緑色盲がいた可能性が高い。また、長男とマークには問題はないが、異母姉は保因者なので、その息子は二分の一の確率で赤緑色盲になり、娘は同じ確率で保因者になる。…こんな一族にとって機密事項になりうる秘密を、バラしちゃったんだもの。
なにより、ハリウッド殿堂入りの際の記録フィルムに写っていた母マリアンの「不幸な顔」がすべてであって、あの顔以上に一家の歴史を雄弁に語るものはない。このドキュメンタリーによって怨念は全く解消されていないと、確信させられる作品である。