2.《ネタバレ》 どうせブルース・リー礼賛の幇間映画であろうとタカをくくっていたが、そうでもなかった。
これは、ブルース・リーの「アメリカの友人」たちが、彼を偲んで作ったというところで、不名誉な事実でも排除しないというドキュメンタリー的視点が盛り込まれているのであろう。
というか、ブルース・リーはアメリカにしか友人は居なかったようだが。彼がいかにして「アメリカにしか友人が居ない」人生を歩むに至ったのかが、幼少期から丁寧に説明されていて、私にすら「人間ブルース・リー」の実像が見えてくる。
彼は、注意欠陥多動障害(ADHD)であったのだと、私は確信した。そのため、幼少期から問題が絶えず、ついには家名の恥になるからと10代後半でアメリカへ追い出されたのである。ADHDを持つ人は、打ち込むと尋常でない集中力を発揮するから、長じて芸術面で功績を残したり、俳優で成功することも多々あって、トム・クルーズもそうだ。トム・クルーズは識字障害まであった。
実家ではお坊ちゃん生活をしていたブルース・リーは、170センチしかなくて中国人であるためアメリカで散々つらい思いをする。比較的若いうちにアメリカの文化に取り込まれた彼は、「アメリカのタフガイ」を真似て生意気な態度・言動が身についてくる。これは死ぬまで変わらなかった。
もともとは自分の悪い素質が原因で故郷から拒絶されて出てきたわけだから、彼はアメリカで定着しようとカンフー教室を始めたりTVドラマに出たりする。
そして、自分の子供は少しでも「背が高くて彫りが深くて白人風」に生まれるように、「金髪碧眼」の白人女を嫁にする。
アメリカで役がつかない彼はコバーンの助言で香港に戻り、映画に出てスターになったあとは、トントン拍子の人生なのだが、ここで「すっかりアメリカ人になったかのようなブルース・リー」の負の面がはっきり出てくる。妻公認で別の女を作る。これは一夫多妻ということなので、所詮彼は東洋人であることを証明しているようなものだ。近親憎悪により中国人を軽蔑し、気に入らなければ脅す。
ブルース・リーは、若くしてアメリカへ放り出されたために、「アメリカ人(とくに白人)になりたかった中国人」として生き、死んでいったのだ。
運命は皮肉で、「白人風」に生まれた息子は28歳で事故で死に、「白人になりたい」という彼の夢は完全に消されたのだった(正確には娘はいるらしいが)。