1.実に身に迫るお話・・・あー、怖い。
戦前の東京の風景、戦前の江戸っ子とそのおかみさん、実にいい味が出ている。
1930年代中盤の日本映画というと、とかく真面目すぎたり、単純すぎる人情劇が多かったりもするが、本作はその点において異質。
世の中の生臭い部分を隠すことなく表現し、人間の卑怯な部分、薄情な部分を描きながらも、その一方で人間の持つ温かみや人情をも描き出している。
こうした絶妙な按配が、今も昔も変わらない「現実社会」というものを、これ以上なくリアルに演出している。
これが実に見事で、五所平之助監督の人間味すら匂わせる作品に仕上がっている。
1930年代の日本映画の中でも、隠れた傑作と言えよう。