1.《ネタバレ》 駅の中でマギー・チャンがニック・ノルティを探し回るシーン、長玉で軽く修正移動をかましながら、カメラが彼女を追っかけ回すが、とても素晴らしい。あれを李屏賓がやると超絶にうまいのだけど、ゴーティエは(彼の場合彼自身がオペレートしてるのかはわからないが)決して丁寧とはいえないし、寧ろ、雑、というか下手上手いというか、味があるとでもいったらいいのだろうか、あれがいいのだ。「イントゥ・ザ・ワイルド」でも長玉、手持ちとかでぶんぶん振り回すのだけど、それもまた雑でありながら、どこか味があってよい。
そのことはさておき、マギー・チャン演じるエミリーが友人の家に居候をするのだが、その友人が犬を連れ家を出て行くが、忘れ物をして家に戻ると、エミリーが涙を流しているというシーンなどは格段に素晴らしく優しい。ただひとりぼっちになってしまった孤独感で泣くというシーンだが、友人が外出し気が緩んだというこの見せてはいないが見えるワンクッションこそが素晴らしいだろう。このシーンまでは常にマギー・チャン、あるいはニック・ノルティを切り取るカメラが、ふいに友人を主軸に動き出すのだが、映っていないところでのエミリーの感情というのが友人が扉をそっと開けた時に一気に動き出すということだ。これこそが映画の巧みな演出だ。
そしてこの映画のニック・ノルティのまなざしこそがアサイヤスのまなざしで、見守るよという、やはり他のアサイヤスの映画同様にこの映画もまた優しさに溢れている。