1.ブラジル人女性がチケット発券し、改札を通過、そして間一髪のタイミングで列車に飛び乗るまで、カメラは彼女の後姿を延々と追い駆けていく。開巻早々の駅構内ロケの場面から、段取り感など微塵も感じさせずに時空間を自在に操るその絶妙なゲリラ的長廻しに心躍る。カメラが奥へ奥へと進む度に構内の一般通行人たちが、何事かとカメラに気を取られる様を映し出していくのも楽しい。
その自由奔放さ・平等主義は、作劇全体にも及ぶ。当初は、旅客である女性二人が主役かと思いきや、偶然的出会いの繰り返しの中で主人公は群像化し、かつ対等化して行く。たまたまレストランの奥にいた女性や、偶然呼び出された牧師たちが主役・脇役の別なくジャムセッションに興じるクライマックスは真に民主的だ。(その後に淡々と描かれる各人の離散の様もまた同様。)ヒッチハイクで偶然出会う端役としての(恐らく本職の)船員一人一人の表情まで丁寧にショットに収めて行く律儀さにジャック・ロジエの資質が現れている。
また、景観に対する視点も当然素晴らしく、印象深いショットは数多い。港湾を望むホテル二階の窓と、出帆する船とのカットバック。小型飛行機の離陸と、その夕暮れの空を捉えた情景。船を乗り継いでのユーモラスなヒッチハイク場面での、船上から岸辺を捉えた横移動ショットの悠然とした運動感。干潮となった広大な泥地の中をとぼとぼ歩く男ののどかな光景。いずれも情感に溢れ、忘れ難い。