1.《ネタバレ》 イタリアの名優マストロヤンニの遺作。演じる役はポルトガルの老いた映画監督、マノエル。これはマノエル・デ・オリヴェイラ監督の分身というべき役。マノエルは3人の男女と車に乗り込み、記憶を辿り人が自らのルーツを辿っていく旅に出る。旅の先々で幼少の頃、若い頃を振り返っていくマストロヤンニの非常に静かな演技が味わい深い。訪れる思い出の場所は今では朽ち果てた廃墟となり走る車の前に広がってくる景色が映し出される事は無く、カメラはリアウィンドウから後方に遠ざかっていく景色を捉え続ける。遠くに過ぎ去った過去を振り返る旅であるとともにこの旅の目的地はマノエルの同行者のフランスで暮らす男が初めて訪れる彼の父の故郷。今の自分が存在する始まりの地。これはまさに自らの世界の始まりの地への旅。そしてオリヴェイラ監督の平和への祈りや、老いや死を意識させる台詞が随所に登場する。オリヴェイラ監督、この時89歳。しかしオリヴェイラ監督は2009年にも映画を撮っているようですし100歳を超えた今なお現役。まだまだ現役で映画を撮り続けて欲しい。