1.巻頭の借部屋で、寡黙なアラン・ラッドがトラウマである左手首を覗かせつつ拳銃の具合を確認するさりげない1ショットでその役柄を雄弁に語り占める。窓辺の子猫を気遣うトレンチコートの彼は、後のメルヴィルのノワール『サムライ』でカナリヤに餌をやるアラン・ドロンの孤独な姿へも連なっていく。
ロケーションが印象深い鉄橋での追跡シーンも両作品に共通だ。
クライマックスの銃撃戦の、貴重といって良いほどの素っ気無さ、スピード感。
ドアの開閉とその背後空間を遮る用法によって見る者に想像を促さずにおかない、見えないアクション演出がもたらす奥行き感。
夜の巨大なガス工場から、暗い排水口を伝って鉄道敷地内へと続く逃避行のスケール感。
さらに雷光、朝靄、蒸気が画面に彩を添える。
警察のサーチライトの光をかいくぐり、人質のヴェロニカ・レイクを伴って暗闇の操車場を逃走するアラン・ラッドは、まさに光と相容れない影を鮮烈かつナイーヴに体現してみせる。
ロバート・プレストンの希薄な存在感に比べ、劇中で見事なマジックを実演するヴェロニカ・レイクは妖しく魅力的だ。