1.《ネタバレ》 室内劇、フィクス主体の端正な画面である上、役者の動作も抑制的でスタティックであり、その画面の美的な求心力と緊張感は尋常でない。
ドイツ表現主義的な画面としては、画家の養子ミカエル(ヴァルター・シュレザーク)が師のスケッチを勝手に持ち出すシーンに拡大投影される竜の黒い影程度に慎ましいが、室内の調度品や美術品、宗教的意匠の数々のみならず、繊細なライティングに浮かび上がる女性たちのショットの輝きは息を呑むほどの素晴らしさである。
そしてその静的な画面ゆえ、女性が小さな溜め息をつく肩や画家(ベンヤミン・クリステンセン)の表情筋の微細な動き、絵筆を折る手の抑えたアクション、そして画面に張り巡らされた各々の視線の微妙な変化が、映画的事件ともいうべき強度を孕む。
特に、ミカエルが恩師を手伝う場面で突出する視線の劇が白眉である。
青年とも、女性モデル(ノラ・グレゴール!)とも、切り返しショットによって視線が結びあう事のない画家は、どうしても彼女の目を描くことが描くことが出来ず、ミカエルに代わりに絵筆を持たせる。
彼女の視線のショットである、アイリスで縁取られたフォーカスの中心が巨匠画家からミカエルのほうへ移動し焦点化され、そして二人の見詰めあう目のクロースアップがカットバックによって繋ぎあわされる。
ショットによる視線の結びつきが示す、心理的関係の劇的かつ決定的な変化がここにある。
かつてミカエルに見ることを諭した画家は、彼に看取られることなく生涯を終えていく。
その臨終の言葉、そしてラストショットの夫人の残酷な美しさも印象的だ。