1.《ネタバレ》 主人公は島に流されたのか、呼び寄せられたのか?本田博太郎は存在するのか?島に春が来ないとはどういう事?鬼とは一体何なのか?話が進むに連れ積み重なっていく謎。そして矛盾点。十分な説明のないまま始まった物語は、明確な種明かしをせずに幕を閉じます。スクリーンを前にして、しばし呆然。しかし不条理映画でもなければ、説明放棄でも無い事だけは確信がありました。その拠り所となるシーンは2つ。薬を盛られた主人公が鏡を拭く場面。そして囚人たちが道具を持たずに砂金を探す場面。前者は“目の霞み”を、後者は“カネに価値は無い”という事を端的に表現しています。説明のための台詞ではなく、描写で観客に伝えようとする姿勢を感じました。この監督は信用できます。果たして物語を読み解く鍵は何だったのか。それは医者の言葉に隠されていたと考えます。「時間は真っ直ぐに進むと思うか?それとも大きな輪を描いていると思うか?」島にはもう何年も春が来ていないと言いました。終わらない冬の正体。歌(魔術)によって島の時間の流れがループしているとしたら……これで多くの謎が説明できるのではないかと。蓄積されない。辿り着かない。いずれは元通り。だから刹那の快楽にしか価値を見出せない。“死”さえも終着点でないとしたら、島の人間が死に対して不感であった事も説明が付きます。時の流れを干渉するほどの魔力があれば、人の心を操る事など造作もないでしょう。ジュントクは(もしかしたら“今回の”ジュントクは)、春を呼び寄せ島に秩序を取り戻した。鬼とは島の精霊。自然の摂理と共に有るもの。変革がもたらしたのは、世界が本来あるべき姿でした。オール佐渡ロケーションで製作された映画。冬と春を映し出す色調整も的確で、佐渡の自然が持つ厳しさと美しさを存分に表現してくれたと思います。ジルバの歌も心に響きました。劇中歌(春を呼ぶ歌)は心を震わせます。大衆受けする映画ではないでしょうが、監督の作家性が伝わってくる作品に仕上がっていたと思いました。最後に一箇所だけツッコミを。施設長が要求したのは、佐渡では造れない美味い酒だったはず。真野鶴は佐渡が誇る美味しいお酒でございますよ。