8.《ネタバレ》 これは面白い。
自転車によるメッセンジャーを題材とした作品としては、邦画にもタイトルそのまま「メッセンジャー」なる傑作がありましたが、洋画代表として本作の名前も挙げたくなるほどの出来栄えでしたね。
とにかくもう、車や歩行者をスイスイ避けて、道路を駆け抜ける主人公の姿を捉えるだけで面白い。迷惑なんだけど面白い。
普通、こういった作りだと「主人公側を善玉として描いているけど、こいつらの方が周りに迷惑掛けているよなぁ」なんて疑念が湧いてしまい、距離を感じがちなのですが、本作はその辺りの観客の反発も、上手く躱しているんですよね。
序盤にて、主人公も「道路の嫌われ者」と自嘲しているし、悪役となる警官にも「クズども」とハッキリ言わせている。
些細な演出かも知れませんが、それによって主人公達は「勘違い野郎」ではないという印象を与えてくれるし、悪役の言葉に対しては(そこまで言わなくても……)と思えるしで、むしろ応援したくなってくるんです。
この辺りのバランス感覚は、非常に巧みだったかと。
特に素晴らしいのが、主人公が事故を起こしそうになった瞬間、時間が止まり、その止まった時間の中で、様々なルートを模索するという演出。
「この道を行ったら、車に轢かれる」「あっちの道を行ったら、乳母車と衝突する」「唯一、この道だけが無事に通過出来る」といった具合に、事故に遭う様も交えてのシミュレーション映像となっており、非常にユニークなんです。
あえて喩えるなら、TVゲームにてセーブ&ロードを繰り返して、正解を確かめる作業に似ているようにも思え、とにかく観ていて楽しかったですね。
また、ストーリー面においても複雑になり過ぎない程度に時間軸を弄っており、主人公と観客とが同時に「依頼者の真の目的」を知る構成になっているのも、凄く上手い。
麻薬の密輸かと思い、一度は依頼を放棄した主人公が「今回の依頼主は悪人ではない。幼い息子と共に暮らしたいと願う善良な母親だ」と悟り、メッセンジャーの誇りに掛けて仕事をやり遂げるべく決意する流れには、熱くなるものがありました。
そんな具合に長所が幾つもあって、かなり好きな映画なんですけど……唯一の難点は「クライマックスが微妙」という事ですね。
主人公は最高のメッセンジャーであり、その腕前を駆使して悪徳警官の追跡を躱し続け、無事に荷物を送り届けようとするという、基本のストーリーラインが良かっただけに、最後の決め手が「人海戦術」というのは、どうも受け入れ難い。
一応、序盤にて「結束力も強い」という一言があったので、それが伏線といえば伏線なんですけど、ちょっと弱いかなと。
主人公単独の技量によって勝利出来たのだ、と思えるような決着の付け方だったら、もっと好きになれていたかも知れません。
そんな具合に、肩透かし感もあったのですが、無事に依頼は達成され、母子が共に過ごせるようになってと、ハッピーエンドを迎えてくれたのは、嬉しい限り。
「このままメッセンジャーを続けていれば、いずれ主人公は事故死してしまう」事を連想させ、刹那的な快楽を求め続けるがゆえの「止まらない」「止まりたくない」という、明るさの中に悲劇の匂いを帯びた終わり方だったのも、良かったです。
何時か事故に見舞われ、死んでしまうとしても、彼であれば、そんな瞬間も満足気な笑顔で迎えられるんじゃないかな……と思えました。