1.《ネタバレ》 もし私が“若いころから容貌が変わらなかった俳優ベスト10”というランキングをするなら、間違いなくベスト1の称号を奉るのはトレヴァー・ハワードです。彼ほど生涯顔つきが変化しなかった男優は他にいないんじゃないでしょうか、ということは若いころから恐ろしく老けた顔だったわけですけど(笑)。 この映画の原題は“Gift Horse”、これは第二次大戦中にまだ参戦していなかった米国が英国海軍に貸与した中古駆逐艦のことを表しています。第一次大戦中に建造されたレトロな艦で、平甲板で煙突が4本もついていて“four-pipers”などとも呼ばれていました。この中の一艦の艦長に任じられたのがトレヴァー・ハワードで、彼は戦前に衝突事故を起こして海軍を退役させられた古傷を持っています。任務は船団護衛ですから地味な物語展開で、前半はこのオンボロ艦との悪戦苦闘ぶりがメインで、沈没船とは衝突するわ防潜網をスクリューにからませるて立ち往生するわでほんといいとこなしです。旧帝国海軍ならこの艦長は間違いなくクビでしょうが、船団護衛に猫の手も借りたい英海軍はそれどころじゃないってわけです。興味深いところは艦長を含めてこの艦の乗組員はほとんどが招集兵であることで、戦闘艦には現役兵しか乗せなかった帝国海軍とはこれまた違いますね。この乗員の中にはリチャード・アッテンボローがいます、50年代に撮られた英国戦争映画には必ずと言っていいほど彼がわき役で出演している感じがするぐらいです。 ストーリーは後半からガラッと変わってこの駆逐艦が特殊作戦に加わってフランスのドイツ軍港に突入することになります。これはサン・ナザール軍港に突入して艦ごとドックをふっ飛ばした「チャリオット作戦」の史実に基づいています。つまりこの映画のHMSベントレーという駆逐艦は、実はこの作戦で戦史に名を遺したHMSキャンベルタウンだったというわけです。偽装のために煙突を二本に減らしたり突入後は艦長以下の生き残りが捕虜になって終わるところなんかは史実通りですけど、作戦名や細かい部分は架空になっています。当時はまだ戦後まもなくなので、こういう特殊作戦については機密解除になっていなっかったからなのかと推測されます。そういう事情もあってか、この突入作戦をメインに出来なかったので牧歌的ですらある前半部との継ぎはぎ感はけっこう半端ないですね。まあそこら辺にこの映画の味があると言えなくもないんですけどね。