1.《ネタバレ》 「古美術ミステリー」の短編集を原作とした映画で、表題作の「文福茶釜」からマンガという要素を除き、代わりに「山居静観」の水墨画を加えて映画一本にしている。映画の舞台は大阪を中心とした関西である(敦賀は出ない)。
内容的には、騙し騙されというほど逆転続きの意外性はないが原作の雰囲気は表現されている。美術品に内在する普遍的価値どころか愛好者の主観的価値も問題にされず、専ら表面上の取引価格しか存在しないかのような世界観だが(「芸術」という言葉が一回だけ出る)、業界人同士の化かし合いは当然としながらも、素人は騙さないという点で一定の倫理水準を保っているのは原作由来のことである。
映画独自の趣向として、原作では登場人物が男(中高年)ばかりで極めて地味なのに対し、映画では女性の新人社員を加えることで華を添えている。かつこの新人を観客に近い存在として劇中世界との接点にしたらしく、顔だけで人を信用してはならないという初歩的な教訓を込めたオチを最後に付けている。ほか原作にはない主人公の生い立ちの話を加えて人情味も出しており、エンドロール後の場面は特に共感できるわけでもなかったが、その場面自体はあとに余韻を残すので悪くない。
少し困ったと思うのは、主人公の勤務先が美術雑誌の出版社という説明はあったが本業の場面がほとんどなく(冒頭の神戸は広告取り)、何で美大出の新卒がこんな会社に就職したのかよくわからなくなることである。この新人はとりあえず修羅場で真贋を見極める力を磨いてから、もっとまともな職場に移った方がいい。
演者については吉本興業の製作らしく関西芸人を揃えたようだが、それはいいとして根本的なところで問題なのは、大阪出身の小芝風花さん(むくれた顔がかわいい)を出しておいて東京言葉をしゃべらせるのはどういう了見なのかということである。自分としてはこの人が大阪弁で本領発揮というのを期待していたので多少の落胆はあったわけだが、それにしても素直で騙されやすい人物をわざわざ東京出身の設定にするのはいわば地域差別(逆差別?)のようなものではないか。真面目で正直な女性は大阪にもいるだろうが(多分いなくはない)。
そういうことで特に好みでもないが基本的には堅実な映画であり、原作ファンと小芝風花さんを見たい人々には見る価値があると思われる。