1.実際にあった庶民の人生や生活の中にあるちょっといい話を映画化。
イギリス映画の得意とするところですが、
本作にもそんなイギリス映画の良さが詰まっています。いい映画でした。
港で漁師たちが昔から歌い継がれている海や漁の歌を町の人に披露している。
それを聞く、ロンドンから小さな漁師町に休暇で訪れていた音楽業界に身を置く主人公の男。
その歌にすっかり魅了されてしまう。彼らの素晴らしい歌を多くの人に聞いてもらいたい。
無骨な漁師のおっさん10人からなるコーラスグループや漁師町の人々と、
彼らのデビューに向けて奔走する主人公の男の交流を描く人情喜劇の佳作です。
1700年代からの先祖代々の言い伝えを守り、言い伝えを歌い続け、誇りをもって仕事に励んできた彼ら。
「海の労働歌は1750年のロックだ!」
いかにして人々の心に響く歌を世に送り出すかと奔走する主人公の男と、
いかにしてカネになる音楽を世に送り出すかにしか興味が無いようなロンドンの業界人の対比。
そこに込められた皮肉も効いています。
主人公の男は漁師たちに対し、「もし売れれば、もう朝早くから魚を獲ってしんどい仕事をすることなんてないぞ」
なんてことは決して言わない。そこにはイギリス映画らしい労働者階級の人々へのリスペクトが感じられます。
そして本作はもう1つのことに言及しています。それはイギリスの庶民の生活に根付く伝統的なパブ文化。
港町、そして彼らが訪れたロンドンのパブにいる皆で合唱するシーンが実にいい。
人々が愛してやまないパブも、コロナ禍でイギリスでは今もロックダウンが続く中、苦境にあることだろう。
2019年の作品なのでコロナが世界を覆う直前の作品になると思いますが、
パブに集う人々のいきいきとした表情を見ていると、少しでも早いコロナの終息を願わずにいられませんでした。