1.《ネタバレ》 ソビエト連邦生まれでフランス在住の監督が国後島で撮ったドキュメンタリーである。クがKOUでシがCHIなのはフランス映画だからである。
日本人が普通行けない場所なので何かと物珍しいが、特に自然景観が美しく撮られており、爺爺岳(1822m)の姿が見事と思わせる場面があった。対岸には知床半島らしきものが長大な山脈に見えていたが、島は戦車とゴミだらけという印象も出している。
地元社会を映した映像もあり、戦勝記念日の式典ではちゃんと軍事パレードをしていたが、モスクワでやるのと違って貧弱だったのは微笑ましい。夜には貧弱な花火も上がり、地元民にとっては年中行事のお祭りのようなものかと思った。
登場人物では、戦後の一時期に日本人と一緒に暮らした記憶のある老人の、日本の文明度や文化性に対する評価が高かったのは驚かされた。昔を知るからこそのいわば親日派が最低1人はいるらしい。
全体構成としては老人が言った「共存すればいい」というのと、会社経営者?の「議論の余地はない」が対置されたようにも見える。ただ会社経営者?の話はロシアの公式見解そのままだろうから、まともに聞けば誰でも同じことを言うだろうが、本音としてはみな老人のように思っているはずだ、というのが制作側の考えかも知れない。
一方でこれを日本人が見た場合、現時点の荒れた世論のもとではとにかくロシアとプーチンを悪として叩く、あるいは安倍元総理もセットで叩く、といった反応が出てきそうだが、さらに戦後以来の日本の風潮として、日露区別なく民衆を不幸にする国家の存在が悪だとする立場もありうるわけで、配給側としてはその辺に近いのかと思われる。個人的には特に考えがあるわけではないが、少なくとも現地住民のためだけに日本が一方的に譲歩する義理はないとはいえる。
なおこの映画とは別に、2016年に日本の読売テレビが取材した番組(最近YouTubeに上がっていた)を見たが、その中でも元島民の人物がロシア人とは仲良くしていたと語る場面があり、ロシア人の子どもらがとにかく可愛く見えたという話は印象的だった。この映画で語られていたのも単なる老人の繰り言というよりは、現実に人々が共存できた時代があったという証言と解される。
最終的には「共存」がこの映画の中心的なメッセージに思われたが、しかしこれを公式サイトのコメントのように否定的に言及して腐すのでは、映画を真面目に見ようとする気までが失せることになる。そもそも制作時点から世界情勢が変わり過ぎて公開適期を外した気もするわけだが。